監督:エミール・クリストリッツァ
2004年/フランス、セルビア=モンテネグロ

1992年ボスニア。村に鉄道を引くために今日ものんびり仕事に出かけていくセルビア人のルカ。そんな彼の生活も紛争の勃発で一変。息子ミロシュが徴兵に取られ、妻には逃げられ、悲しみながらもひとりのんきに暮らすルカ。ある日、息子が捕虜になったことを知らされる。そんな折、息子を救うための人質として敵国の女性、サバーハが送られて来て、奇妙な共同生活を始めることに。やがて愛をはぐくむ二人。しかし、息子を取り戻すためにはサバーハを手放さなければならない……。
民族問題に紛争、捕虜となった息子、出て行った妻、等、そうしようと思えばいくらでも暗く重くシリアスにできる要素を備えていながらも、この作品はそれとは逆ポジションに位置しています。
ユーモアに満ちていて、おおらかで、やさしい。
たとえ同じ素材を同じような手法で撮影していったとしても、日本の作品では絶対に作れなかっただろう、と思います。
この、「捕虜交換による、愛する女性と息子の二者択一」というシチュエーションは、セルビアで実際にある男性の身に起こった出来事なんだそうです。
監督はこの男性の話を聞き、「それは戦争を強烈に表していると思った」と語っています。
それは、この作品を見ればすぐに分かることです。
戦場で理性もなにもなく、死と荒廃と腐敗に口づける姿を描くのも戦争を描くひとつのかたちではありますが、どうしてもそちら方面では場面の凄惨さ、残虐さという分かりやすいものに目を惹かれてしまって、その奥に存在するものにまで目を配ることは難しいです。
舞台は戦場ではなく、主役も兵士ではない。ただ、敵国の住人であるというだけの男女が恋をする。たったそれだけのことで、実は充分なのです。
サバーハ役のナターシャ・ソラックがすごいかわいい。
大きな瞳に、思わず吸い寄せられるような力のある役者さんだと思いました。
戦争をユーモアたっぷりに描いた作品というと、『ライフ・イズ・ビューティフル』が思い浮かびますが(あ、タイトルそっくり)、基本的な姿勢は変わらないのですが、ラストがね。『ビューティフル』の方はせつなすぎます。いや、ああいう終わり方をするからこそ良いんだというのは分かりますが。
それに対し、『ミラクル』の方は最高にハッピーです。
ルカの決断、そして線路。そこまでは、もう、どう終わるのかはらはらどきどきしていましたが、自殺しようとするルカを救い、あのラストに導いたロバ。
「私は人生というものの奇跡を信じているんだ。」という監督の言葉通り、愛することと生きることの希望とよろこびに充ち満ちた、すばらしい終わり方だったと思います。
すごく好きな作品でした。
ライフ・イズ・ミラクル
http://www.gaga.ne.jp/lifeismiracle/