監督:草野なつか

シナリオ学校に通う綾の原稿が学校課題のラジオドラマに選ばれるが、共同執筆者を立てることが放送の条件だと言われる。嫌がる綾は、偶然言葉を交わした会社の同僚・幸子の大人しい性格に目をつけ、共同執筆者に仕立て上げようとする。地味な自分とは違う華やかな綾に憧れ近づきたいと思う幸子、美人だが自分本位な性格が災いして人間関係を構築できない綾、対照的な二人の関係は、やがて奇妙な空間へと誘われるが…。
あなたのように食べ
あなたのように
見ることが
できたらいいのに。
「地味な自分とは違う華やかな綾に憧れ近づきたいと思う幸子」と「美人だが自分本位な性格が災いして人間関係を構築できない綾」が衝突しながらなにかを作り上げていく、という、まるで正反対だけれど自意識ばかりが発達した女子二人の物語。
というと、まるで本谷有希子かよと言いたくなってしまいますが、本谷作品のような派手な部分や思わず目を引くような部分はなく、結構静かな作品でした。
本谷作品が見た目からしてどろどろした灼熱の泥流であるとするならば、この作品は見た目はさらさらと涼やかに流れる小川だけれど、一歩足を踏み入れると底なし沼のように呑まれてしまうという感じ。
綾ははっきり言ってお近づきになりたくないタイプですが、それでも見ていて憎めない。
幸子も実際近くにいたら友達になれないだろうなと思うタイプですが、どこかしら愛嬌がある。
どっちかによるのではなくどちらとも程よい距離感を保ったまま、人物の良い部分も悪い部分も魅せてくる。
「まぁ、人間そんなもんだよな」と思わされてしまいます。
また、ラジオドラマという題材が良かった。とても。
ラジオドラマを収録しているはずが、いつのまにかそれ自身が幸子と綾の言葉のように聞こえてきて、引き込まれていく。けれどラジオドラマである以上終わりは必ず訪れて、そこで現実に引き戻される。
あれは脚本を読んでいただけなのかそれともそれ以上のものだったのか、それらが曖昧で二人の気持ちがどこにどう落ち着いたのか判然としないまま、ラストシーンへつながっていく。
深夜のコインランドリー。
特別な時間で特別な空間であるそこに、幸子と綾が現れて、二人でラジオに耳を傾ける。
はっきりとした言葉では語られないが、そこには確かに二人が紡いできた物語があることがはっきりと感じられる良いシーンでした。
初長編監督作、しかも役者も新人さんのようなので、どこか粗削りというか、手放しで絶賛するわけではないけれど、良作といって差し支えない作品だと思いました。