佐藤多佳子 / 偕成社

パワー・スポットとして、ひそかな人気の白烏神社。
そこにくらす藤堂千里は、古武術の天才少女だ。祭りの夜、子ども神楽の剣士をつとめたあと、うたげの席によばれた千里は、そこに、いるはずのないクラスメートたちの顔を見ておどろく。
仲よしばかりではない。「敵」もいる。
ぶつかりあい、まよいながら生まれる新しい関係。
やがて六人は、とんでもない事件に巻きこまれていく。
『三人寄れば、物語のことを』で確か佐藤さんご本人が仰っておられたと思うんですが、なるほど確かにNHKっぽい。
「さわやか三組」みたいな道徳の授業で見るようなのではなく、もうちょっと雑然としているというか。しかし民放のドラマよりはどこか品の良さが漂うというか。
とにかくなんとなく郷愁を感じさせつつも、舞台やキャラクタたちはきちんと現代になじんでいるという感じでした。
さすがだな、と思ったのは、子どもたちそれぞれの描き方でした。
あらすじに「敵(てき)」とはっきり書かれている礼央。確かに嫌な奴として登場し、言動や行動もまさに敵(てき)に相応しいものなのですが、その彼も家に帰れば彼個人の悩みがあり、事情がある。そうした両面を丁寧に、しかし大げさでなく積み重ねていくことで、いつの間にか礼央は「敵(かたき)」役へとシフトチェンジしていきます。
字は同じでも、このふたつは全然違います。
主人公と対立しつつも、倒されるべき存在なのか、認め合う存在なのか。
敵(てき)役は悪役と言い換えることもでき、倒されるべき存在ですが、敵(かたき)役は読者の共感を得てしっかりと一人のキャラクタとして主人公とともに立つ存在となります。
そして、礼央だけではなく、ほかの子どもたちにもそれぞれの事情があり、それらをさりげなく配置していくことで、この物語の主人公はあらすじで名指しされ、表紙にも一番前に描かれている千里だけではないのだな、と自然と気づかされていきます。
まだまだはじまりの第1巻、物語がこれから転がるためのイントロダクションですが、上質の群像劇が展開される予感に満ちあふれています。
続きが楽しみだけれど……いいところで待たされるのも悔しいので完結してから一気読みしようかな。我慢できるかな。