村山由佳 / 集英社

かれんが鴨川に行って数か月──。
早くもすれ違いが続き、会えない日々を送る勝利にとって、唯一の慰めは毎日送られてくるメールだった。
ところが、そのメールも途絶えがちになり、ついにはまったく連絡がつかなくなる!
耐えきれなくなった勝利が、意を決して、かれんの勤め先に電話をかけると…。
ふう。とうとう「おいしいコーヒーのいれ方」も十巻です。そして、来るところまで来てしまったというわけです。
とにかく、今回は勝利に対するむかつき方が半端じゃなくて、途中からはらわたが煮えくりかえって本を持つ手が震えたり文章を追うことができなくなったりしました。
勝利自身が追い詰められていることは分かるけれど、だからってそれはかれんにあんなことをしてもいい理由にはならない。絶対にならない。
ましてや、あんなひどいこと言ってしまう理由には。
「す……き、なのに……。そうじゃなかっ、たら、ショーリにそんなふ……に言われて、こんなに、傷つい、りしない……私だって、ほんとに……ほんとにちゃんと……っ……」
かれんに、自分の好きな女にこんなことを言わせるなんて、駄目だ。駄目で駄目で駄目駄目だ。
自分もきっと同じ立場に立たされたらきっと同じことをする──いやいや、下手したらもっともっとひどいことをしてしまう。そう分かっているからこそ、今回の勝利はもうどうしようもないくらいに憎まれ役だったのです。不甲斐なさの象徴で、憎むべき愚かな男性像。
しかし、それを乗り越えていけるだけの絆が、ふたりにはあるのです。
十二年、十巻の重みは伊達ではないのです。や、作中では三年半なんですけどね。
そして。
そして、とうとう。
いやあ、あのシーンを読むのにどれだけの気力が必要だったか。
や、も、本気で憤死するかと思った。
ベッドの上で枕を殴り続け、マットレスが変形するんじゃないかっつーくらいに膝を叩き込み、全身を隈無く使って暴れ回って、それで、もう、がくがく震える腕を自分の体重で押さえつけて、ようやく読んだ。
も、なんだあれ。
ちくしょう。駄目だってーなにが駄目なのか分かんないけど駄目だってー。
ああ、恋がしたい。
恋がしたい恋がしたい恋がしたい。
どうすればこの凶暴な気持ちを抑えることができますか。
どうすればこの凶悪な猛りを鎮めることができますか。
──ああ、恋がしたい。