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監督:ジョン・カーニー
2006年 / アイルランド
once.jpg
ダブリンの街角で毎日のようにギターをかき鳴らす男は、ある日、チェコ移民の女と出会う。ひょんなことから彼女にピアノの経験があることを知った男は、自分が書いた曲を彼女と一緒に演奏してみることに。すると、そのセッションは想像以上の素晴らしいものとなり……。


傑作!
『4分間のピアニスト』も音楽映画の中ではいい出来だと思いましたが、こちらはもう文句なく音楽映画の傑作だと思います。


穴の開いたギター片手に路上で歌う男。
そこで出会う女。ふたりは音楽を通して意気投合し、すばらしいセッションまで行ってしまう。
と、ここまでくれば、アメリカとか日本なら間違いなく恋に落ちてしまうんですが(笑)、この作品ではそうはならない。
男の方は女に好意を抱くんですが、女はあくまで音楽家としての男に好意を抱くものの、その気は全くない。
それでもめげずにやわやわとアピールをくり返す男の姿がなんだかかわいらしい。

そうした淡い恋愛模様を挟みつつ、それを盛り上げるのが音楽。
もう、これがすごい良くてね。
まぁ人ぞれぞれ好みはあるかもしれませんが、僕は大いに気に入りました。

特に、はじめて男と女がセッションするシーンは絶品です。
ギターを弾きながら、コードとフレーズ、メロディーを女に教える男。女はそれを聞きながら、コーラスを奏で始める。
はじめはおずおずと。手探りするように。
それに合わせるように遠慮がちだった男の演奏。
それが、徐々に息が合ってきて、すると男のギター・声が大きくなる。すると、女のピアノ・声も合わせるように響き始める。
音楽が生まれる一瞬、その奇跡の瞬間を見事にスクリーンに再現していた、と思います。
主演の二人がミュージシャンだからこそできたシーンでした。

また、とうとう迎えたレコーディングの日。
はじめは彼らのことを小馬鹿にし、携帯を片手にしていたサウンドエンジニアが、演奏を聴いた途端に真剣な表情になり彼らの音楽に引き込まれていくシーン。
あそこで、見ているこちらも同じように引き込まれた。
うつくしい音楽だった。あそこに映し出されていた一体感は本当に格別なものなのだろうな、と思った。
流れる音楽はもとより、演奏している彼らの表情がなにより雄弁だった。


そして、なによりもこの作品を傑作としているのは、タイトルにもなっている「once」というテーマ。
onceには、「一度、一回」という意味と、「かつては、昔」という意味もあります。
この作品の中で出てくる曲は、過去の失恋を元に男が書いた曲ばかりです。女が一度自曲を披露することもありますが、その曲も別居中の夫に向けて過去に書いた曲です。
すばらしい演奏を実現させたバンドは、しかし、たった一度きりのものです。
男はそのCDを片手にロンドンへと向かいます。たとえそこで認められ、同じ曲を再び演奏することになっても、あの瞬間の音は二度と出せません。かつてあった、たった一度きりの即興バンド。
男と女は結ばれることはありません。
そして、おそらく以後二度と会うこともありません。
一期一会、たった一度、かつてのあのとき。

このテーマを二重三重にも重ね合わせ、音楽という一瞬の芸術に託したところが、実に秀逸でした。


once ダブリンの街角で
http://www.oncethemovie.jp/
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