谷川史子 / 集英社
その日、母は帰ってこなかった。秘められたその過去を追いながら、自分自身の忘れられない恋と向き合う智花。そして出した結論は――?
愛し続けることの意味をあたたかい視線で問う表題作ほか、胸にせまる読切り3編を収録。
表題作の「忘れられない」が最高にいい。
『東京マーブルチョコレート』ではじめて思ったんですが、谷川さんの描く失恋は、とてもいい。
読み終わったとき、失恋したくなるほどに。
失恋は、読んで字のごとく「恋を失う」喪失の物語だから、決して楽しいはずはないんだけど。
失恋をこんなに大切に丁寧に描かれると、そこに込められた「誰かを好きだった気持ち」がまざまざと立ち現れてきて、普通に恋愛物語を描かれるよりもよっぽどクる。本当にうつくしいよ。
同じく失恋ものだけれど、今度は打って変わってショートの「春の前日」。
これもいいなぁ。
学生時代のたったひとエピソード。いやふたエピソードか。
ずっと好きだったとか、忘れたことがなかったとか、そういう強い強い気持ちじゃなくって、不意の一言、文字の形からほどける気持ち。
すとん、と気持ちが胸に落ちてくる瞬間ってのは確かにあって、しみじみと見てしまう。
ああ、もう、やっぱりいいなぁ、谷川さんの描く失恋。
でもね、だからって、普通の恋愛ものが悪いわけじゃないんですよ。
この本に収録されている「つまさきで踊る」は、ベタな感じの恋愛マンガだけど、これもいいんだ。
恋をしたときのふわふわした気持ちを「つまさきで踊る」だなて、もう、言葉選びのセンスはもとより、その部分をしっかりと描き込んで見せてくれるのがたまんない。
とっくに忘れてしまっていた気持ちを思い出してしまいます。
昔の、りぼんで活躍していた頃の谷川さんも良かったけど、ここ最近のちょっと大人向けの谷川さんは輪をかけて良いなぁ。