寺尾紗穂
01.道行
02.バスの中で
03.老いぼれロバの歌
04.追想
05.風のように
06.酒場の唄
07.私は知らない
08.はねたハネタ
09.富士山
10.時よ止まれ
寺尾さんの6thアルバム。
今回は曲ごとにさまざまなアーティストと手を組んだ、変化球だらけの一品。
中にはラップまであるというのだから、いったいどんなものに仕上がっているのか非常に楽しみでした。
うん。
聴いてみればなんてこたあない。
やっぱりプロの仕事ってすごい。どれも、寺尾さんひとりでは生み出せない音なのに、すべてが寺尾紗穂の個性を際立たせていました。
中でも、「老いぼれロバの歌」と「はねたハネタ」がいい。
「老いぼれ~」はいろんな種類の「かなしさ」がぎゅっと詰まった詩で、かなしみにもこんなにいろんな色があるんだなぁ、と改めて感じ入る作品でした。
それなのに、全体的に暗いトーンのこのアルバムの中で、一番キャッチーな曲。
それなのにかなしい。
寺尾さんの澄んだ声が染み入ります。
「はねたハネタ」は、「人をはねました、思いっきりハネ飛ばした」という出だしからして衝撃的。
さらりと流して聞くとなんとも言えぬ後味の悪い詩でしたが、何度か聴いて詩がしっかりと染みてくると、「ああ」とため息がもれてしまいました。
『放送禁止歌』の「アジアの汗」に通じる部分がここにも確かにあって、ホームレスと彼らを取り巻く環境を哀しむでも憐れむでも嘆くでもなく、ただ歌い上げるそのスタンスが、逆に心苦しい。
考えさせられる、というか。非常に月並みな言い方ですが。
テレビや新聞でのどんな報道よりも、せまるものがありました。これが歌の力なんだな、と感じずにはいられない。
そのほかの曲、どれもがとてもうつくしいのですが、さっきも書いたように、全体的に暗いトーンであることは否めません。
寺尾さんの鋭すぎる感性は社会の負の部分をどうしても掬いがちではありましたが、3.11を経て、その勢いが加速しているようにも感じられます。
それが悪いことだとは思いませんが、「ペッパ&ソルト」のような新曲が聴きたいな、とも思いました。ポップでなくてもいいけれど、ライブでみんなで手拍子を打ちながら口ずさめるような曲。
石川に来るかもしれない、と言ってからもう3年が経つわけで、もう諦めてはいるんですが、いつかこっちでライブやってくれないかな。