それぞれの作品ごとに作家の個性がにじみ、同じテーマでもまったく異なるテイストを味わえるのがアンソロジーのおもしろさですが、今回のこれは、特にその振れ幅が大きかったように思います。
個人的には谷川俊太郎の「言葉」、川上弘美の「神様2011」、明川哲也の「箱のはなし」、阿部和重の「RIDE ON TIME」がよかったです。
特に「神様2011」。川上弘美のデビュー作である「神様」の3.11以後バージョンで、オリジナルと2011バージョンの二つが並んで載っています。
この対比が見事!
熊の神、という存在がよりくっきりと浮かび上がり、作中に描かれるくまの姿や立ち居ふるまいから、どんな人間の神様よりも尊い姿を想像してしまいます。
その敬虔さが、いま、求められているものの正体なのではないのかな、と思います。
また、阿部和重の「RIDE ON TIME」のラスト。
「たとえまたもやライディングに失敗したとしても、そのありさまが、三〇〇人もの人たちの目に留まれば、ひとつの意味がそこに浮かび上がりはするだろう。
ひとつの意味がどこかに浮かび上がれば、それも突破口をこじ開ける、力の一部に生まれ変わるにちがいない。
そうすれば、いつもとはまったく異なる金曜日を、いつも通りの金曜日に変えることができるかもしれない。」
この3文、たったの3文が、希望という概念を実に的確に言い表していると思いました。
しかし、未映子さんは、もうこれからずっと「文筆家・川上未映子」なんだろうか。
正直、光るものがないんですよね。素材の捉え方と感性はすばらしいままなのに、一時期の勢いがまったくなくて。
「ミュージシャン・未映子」が復活しないかなぁ。あのすばらしい歌をもう一度。や、「もう一度」程度じゃ物足りないんですけど。せめて。