柴崎友香 / 幻冬舎
好きです、と書いてある。
誰かが、私の恋人のことを好きなのだった。
恋より世界史が好きな女子高生、元彼の今妻のブログを見る二児の母、半年で離婚する男、恋人に会えないモデル、ラブレターを見つけたわたしと書いたあの子……
なんでみんな、恋なんていうややこしい感情を、わざわざ持とうとするんだろう。
かっこわるいくらい動揺して、はしゃいで、行き場のない思いを抱えて、羨んだり妬んだりもしないといけなくて、思いが通じたら通じたでいつ失うかとおびえて、周りの人間関係も複雑にして。それでもどうしようもない気持ちなんて、そうして必要なのか、よくわからない。
ちょっとこれまでの作品とは毛色が違うように感じられました。
柴崎さんの作品は、常に一定の距離感が感じられて、その近づかない感じが心地よいのですが、今回のはその距離がもう少しだけ開いているように感じました。
一人称による連作短編なのに、どこか遠い世界の出来事のような。
あらすじにあるとおり「恋」にクローズアップした作品ではありましたが、恋が成就しようが壊れようが甘かろうが酸っぱかろうがそんなことは関係なく、そのとき感情がどう揺れたのか、を切り取ってある作品でした。
感情がどう動いたのか、ではなく、揺れたのか、です。
その微小だけれども、決して見過ごせないものを見つめる視点は、まさに柴崎友香でありました。
個人的には「恋よりも世界史が好きな女子高生」の話が好きでした。
自分は恋をしていないのに。
友達の「恋をする姿」を見て、心が揺れていくさま。
ドキドキするというか、ニヤニヤしてしまうおもしろさでした。