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上橋菜穂子 / 偕成社
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人の世界とは別の世界で花をつけ実をむすぶその<花>は、人の夢を必要としていた。一方、この世をはかなんでいる者は、花の世界で、永遠に夢を見つづけることを望んだ。
いとしい者を花の夢から助けようと、逆に花のために魂を奪われ、人鬼と化すタンダ。タンダを命をかけて助けようとするトロガイとチャグム、そしてバルサ。
人を想う心は輪廻のように循環する……

読んで驚きました。
これ、まさに現代の若者向けですよ。

異界で咲く<花>は、人の見る夢によって花をつけ実をむすぶ。そのため、この世をはかなんでいる者に甘美な夢を与え、自らの内にその者の魂を招き入れて来るべき開花を待つ。
世をはかなむ者、というのは、つまり、

「ここは自分の居るべき場所じゃない。もっと別の“どこか”があるはずだ」

という思いに逃げ込み、現実から逃避している人間です。
つらい現実から逃げ出し、甘い夢の中に閉じこもり、自分の都合の良いことにしか目を向けない。


チャグムは皇太子という立場に息が詰まる毎日を送っています。そんなとき、ふとバルサやタンダ、トロガイといった懐かしい名前を聞き、<花>に囚われてしまいます。
現実から逃げ出し、バルサたちとともに過ごしていたい。
決して叶うことがない願いだとチャグム自身よく分かっているからこそ、この願いはとてつもなく甘美な夢となってチャグムを取り込んでしまいます。

タンダは同じく<花>に囚われてしまった姪を助けるため、魂となって<花>の世界に忍び込み、偶然チャグムと出会います。
そこでチャグムが見ていた夢──バルサがいて、自分がいて、トロガイがいて、みんなで楽しく暮らしている風景──を見たときのタンダの気持ちは如何ほどだったことでしょう。
そしてタンダはチャグムを現実に戻そうと説得を試みます。

 現実をきちんと見ろ
 がんばれ、お前ならできる
 夢に逃げていても仕方ない

こういう場面で出てくる常套句といえばこんなもんですか。
でも、タンダはチャグムになんと伝えたと思います。なにがチャグムの心を動かしたと思います。
タンダは、チャグムに、ただ「生きてくれ」と言ったのです。
血は繋がっていなくとも、お前は俺にとってもバルサにとっても大切な子だ。だから、元気に生きていてくれ。
圧倒的なまでの肯定と、祝福を。
そのことをきちんと認め、与えてくれる人がいれば、それでいいのだ、と、この物語は語っています。


引きこもりだ、ニートだ、と喚く識者は、心理学や精神分析や社会学の前にもっと児童文学を読んだ方が良いよ。
引きこもりだ、ニートだ、と呼ばれる彼らは、ネットやゲームをしてる暇があったらもっと児童文学を読んだ方が良いよ。

簡単なことを簡単に書く、こんなとてつもなく難しいことを、児童文学は易々とやってのける稀有なジャンルだから。どこから手を付けていっても、決して損はしないはずだから。
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