梨木香歩 / 角川書店

百年前の日本人留学生、村田君の土耳古滞在記。
「家守奇譚」に名前だけ出てきた“土耳古の村田君”の、滞在記。
異国情緒溢れるスタンブールでの、国も信仰も違う友との生活。けたたましい声でなく鸚鵡。古代への夢と憧れ。そして緊迫する世界情勢。それは、懐かしくも輝きを放つ青春の光そのものだった。
「家守奇譚」と地続きの世界であるためか、文体は「家守〜」同様、とても淡々としている。それが異国の地で異国の人々と寝食を共にする村田の生活の雰囲気を良く表している。
ここ、土耳古でも、この時代においてはまだ不思議が不思議として生きている。
突如浮かび上がる衛兵の姿、夜になると光を放つ壁、縄張り争いをする神々。不思議なことだなぁ、と思いながらも、それを当然のこととして受け入れ対処する姿に、豊かな精神世界を垣間見ることができます。
この作品を読み、ここ最近で久しぶりにいたく感動しました。
それは、この一文です。
私は人間だ。およそ人間に関わることで、
私に無縁なことは一つもない。
こんな素晴らしい言葉を、過去、誰かが発したということ。そして、その言葉を引用した誰かがいたこと。
なんだか、とても久しぶりに、心の底から「人間もなかなか捨てたものじゃない」、と思いました。
震えました。