菅浩江 / 早川書房

地球の衛星軌道上に浮かぶ巨大博物館──<アフロディーテ>。そこには、全世界のあらゆる美術品、動植物が収められている。女神の名を冠した各専門部署では、データベース・コンピュータに頭脳を直接接続させた学芸員たちが、収蔵品の分析鑑定・分類保存をとおして、“美”の追求に勤しんでいた。そんな部門間の調停を司るのが、総合管轄部署の<アポロン>。日々搬入されてくる物品にからむ、様々な問題に対処するなかで、学芸員の田代孝弘は、芸術にかかわる人々の想いに触れていく……。
以前NHKの青春アドベンチャーでラジオドラマを聞いて以来、気になっていた作品でした。小惑星をまるごと博物館とし、そこで働く学芸員はデータベースと直接接続している。
ああ、なんておもしろそうな設定でしょうか。
何度も書くようですが、たとえどんな技術ができたとしても、それを扱うのは結局のところ人間です。その基本のところを決して忘れない、すばらしい作品でした。
九つの短編を集めた作品ですが、全体を通しての流れというものもきちんとあります。
なんていうんですか、明らかな伏線というものはないんですが、読み進めていく内に感情や気持ちが織り上げられていくような感じがします。
言葉にしづらいものを描くのが上手い人ですね。
SFでこうした作品が書けるなんて、素直に感服してしまいます。
極上でした。