豊島ミホ / 角川書店

かっこわるくていたたまれなくて、ちょっぴり愛しい上京ボーイズ&ガールズのキャンパスライフ。
アホみたいなプライドとツユダクの自意識に、潰れそうな日もあるけど。
鬱屈した学生というと森見登美彦が真っ先に思い浮かびますが、豊島ミホもなかなかやりますよ。
『檸檬のころ』のような一見きらきらしい青春要素にだまされそうになりますが、この人の作品は、基本が「鬱屈してる青春」でその中の一瞬のきらめきをあぶり出すから、余計にきらきらしく見えるというだけです。
掲げられた看板に偽りなく、「アホみたいなプライドとツユダクの自意識」をもてあました学生、しかも上京ボーイズ&ガールズは、もう、ほんと容赦ないです。
人生前向き、順風満帆、ネガティブ?そんなの聞いたことないけど? みたいな人でない限り、絶対どこかで自分と重なる部分を見つけてしまうはずです。
どれもこれも良いのですが、
「いちごに朝露、映るは空」
「どこまで行けるか言わないで」
のふたつが特に好きでした。
「いちごに〜」は、主人公の世界がサークルだけで閉じてしまわないところがいい。きちんと学科とサークルの両方で人間関係を構築しつつも、そのどちらにも浸りきれない、一体自分はなにがしたいのかも分からない、選べない。
けど、手にしたものの価値は分かってる。
その価値は自分で決めるのだ。
この煩悶がすばらしい。
「どこまで〜」は、この作品集の中で、特に根拠のない「万能感」と「優越感」がむき出しにされた作品でした。
自分たちは、ただなあなあとしてるあの人たちとは違うのだ、と思っていたのに、あれ、よく考えると結局同じことしてない? と気付いてしまう。でも三人ならなんとかなる気がした。でもでも、本当に本物だったのはその中の一人だけだった。そのことをエグいくらいに見せつけます。
クライマックスは、背筋がぞくぞくするくらい興奮します。
完全無比な青春を送ったと自負できる人以外のすべての人に読んでもらいたい作品です。