監督:スザンネ・ビア
2006年 / デンマーク、スウェーデン

インドで孤児たちの援助活動に従事するデンマーク人ヤコブは、巨額の寄付金を申し出てきた実業家ヨルゲンに会うため故郷デンマークへ。そして偶然にも、ヨルゲンの妻ヘレナは自分のかつての恋人だった。
インドで人道支援をする男。資金難の現状を打破するために向かった先で待っていた実業家の妻は、かつての恋人。そして実の父親の顔を知らない娘。
巨額の寄付を得るために提示される条件は、ヤコブがデンマークに住むこと。
そんな条件は呑めないと一旦は席を立つヤコブだが、ヨルゲンはそこで意外なことを口にする。
自分はもう病で長くない、どうか妻と娘の側にいてやってくれ、と。
……と、このように書くと、いかにも湿っぽくどろっとしたドラマを思い浮かべそうですが、実際のところは全然違います。
おそらく同じ設定・ストーリーで日本人が作ると、前述の予想通りの物語になるでしょう。アメリカだと、どろっと部分がすこし少なくなり、代わりにお涙頂戴で大いに湿っぽくなる。
でも、この作品はすごくさらっとしてます。
まさにヨーロピアンスタイル、北欧らしい作りです。
余命幾ばくもないと悟った実業家が、遺される妻と娘のために妻の昔の恋人にして育ての娘の実の父親を呼び戻す。そして、その男にすべてを(妻も娘も財産も。まさにすべて!)託し、死の床につく。
これはそういう物語です。
一見すればなんて出来すぎな! と思わずにはいられませんし、実際、僕も見ていてそう思いました。
ヨルゲンにとってこれは苦慮に苦慮を重ねた末の決断であったのだろうな、とちらっと思いはしましたが、やはり出来すぎという言葉がぴったり来ると感じてました。
でも。
会社の記念パーティーの席で高らかにこれからの繁栄と発展を謳ったヨルゲンは、そのパーティーが終わった後、同じ口で叫びます。
「死にたくない!」
泣いて叫んで妻にすがりつくその姿を見、ようやく腑に落ちました。
なんとなくそうなんだろうな、と思って想像していたヨルゲンという人間が、ものすごいにおいを伴って立ち現れました。
この物語は、出来すぎでなくてはいけなかったのです。
ヨルゲンのしたことはすべて自分のエゴです。
もちろんそんなこと、ヨルゲンは百も承知です。だからこそ、自分の感情を見せてはならなかった。
綺麗事で飾っておかなければ、まず自分が耐えられないのですよ。
あ、あと、目や口のアップが非常に多い作品でした。
目は口ほどにものを言う、とは日本のことわざですが、向こうにもそういう考え方があるのかな。
そのパーツのアップ、普段なら見逃してしまうような微かな動きや潤みが、すごく大きな表現となっていました。
アフター・ウェディング
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