監督:横浜聡子
2006年 / 日本

植木職人見習いのよし子は学校にも行かず、ボロ家に住み、周囲からは「ゴリラーマン」とののしられる天涯孤独な16歳。おまけに不細工でわがまま、他人からみれば不幸そのものだが、彼女は決してうつむかない。歌手を目指し、たて笛でオリジナル曲を作るよし子は、近所の子どもたちを相手にたて笛教室を始める。
なんとも言い難いパワーを感じました。
予告もそうだし、ポスター、チラシも。
実際見てみると、想像を裏切らない不可解なパワーを持った作品でした。圧倒された。
いろいろと粗が目立つ部分はありますが、なんといっても、トラウマを内向的に捉えないという姿勢がとてもいい。
昨今、トラウマをキーにした作品が多いです。
こんな傷を持ってます、だからこんなに苦しいんです、でもそれを乗り越えてがんばります、みたいな。
それが悪いとは言いませんが、安易であることも確かな一面だと思います。
この作品では、他人のトラウマを聞き出して、それをよし子が歌にします。
トラウマを傷として捉えるのでも、乗り越えるべき壁として捉えるのでもなく、ただ単純にネタとして捉えるのです。
その潔さといったら!
湿っぽくするだけが芸じゃないよ、ということを見せてくれてます。
そうそう、大体さ、トラウマ(大小にかかわらず)持たずに生きてる人なんているわけないじゃない。
でも、だからって世の中って湿っぽいか? 感動的か?
トラウマなんて豪快に笑い飛ばし、嘲笑い、唾を吐く。
そういう付き合い方だって確かにあるんですよ。
そして、多分、そういう付き合い方の方が、人間うまいことやれるんです。
自分を可哀想がって、他人を可哀想がって、傷を舐めあって慰めあって依存してぐずぐずになるより、ずっと。ずっと。
そんな他人のトラウマをもとにして作られた「ジャーマン+雨」。
作品のタイトルにもなっている作中曲。
これが名曲。
ぞくぞくするような興奮を覚えました。力強い歌声にK.O.です。
みんないたか? みんないた。
子どもできたか? まだできない。
歌手になれたか? まだなれない。
みんないたか? みんないた。
チラシにも書かれ、作中でもよし子の独白として使われる台詞。
よし子の夢は、たくさん子供を作って林家を絶やさないことと歌手になること。そのどちらも、達成までは実に遠い道のりです。そのことが、作中では実に軽く描かれます。その軽さが、おそろしいほど残酷なものとして迫ってくる。
しかし、その現状を表す台詞は、「みんないたか? みんないた。」という台詞に挟まれています。
これが、この作品で描かれた唯一にして最大のやさしさだと思います。
夢未だ遠く、道険しいけれど、みんないた。
それならそれでいいよね。充分だ。
ジャーマン+雨
http://www.german-ame.net/