E.L.カニズバーグ / 岩波書店

少女クローディアは、弟をさそって家出をします。ゆくさきはメトロポリタン美術館。そこでこっそり暮らすうちに、2人はミケランジェロ作とされる天使の像にひきつけられ、その謎を解こうとします。
寺尾さんのHPに大貫妙子トリビュートアルバムに参加する、というステキすぎるニュースが載っておりまして。曲目とアーティストの一覧を見たら、なんと「メトロポリタン美術館」があるじゃないですか! しかも2バージョン。そのうちのひとつがオムトン。購入を強く心に誓いました。
まぁ、それはともかく。
この歌、みんなのうたで流れてたとき好きだったんですよねー。
歌詞世界が独特で、すごいふしぎな歌なんですよ。
ていうような話をしたら、「『メトロポリタン美術館』といえばカニズバーグ」と返ってきました。じゃあ、とネットで調べてみたら、このカニズバーグの物語があの歌詞のもとになっているとか。
にゃるほどー、ということで図書館で借りてみたのでした。
物語はとてもシンプルで、クローディアという少女が弟と一緒にメトロポリタン美術館に家出をする、というもの。
おお、これは確かにあの「メトロポリタン美術館」。
朝晩トイレで開館と閉館をやり過ごし、夜は展示品のベッドで眠る。まさに美術館が家そのもの! なんてぜいたく。
おもしろいのは、親や学校にうんざりして家出を決意したはずのクローディアが、弟のジェイミーに「一日にひとつの展示室を勉強するのよ」と提案するところ。
クローディアがせっかく家出したんだから自由気ままに遊び歩こう、と考えるような女の子ではないというところが、この物語のミソです。
自分の能力と価値を信じていて、好奇心が旺盛で、行動力も兼ね備えた女の子。
完璧なヒロイン像じゃないですか。
そしてクローディアとジェイミーは人知れずメトロポリタン美術館に住みながら、数々の美術品に囲まれ暮らします(うらやましい!)。そんな中、ミケランジェロ作ではないかと言われている天使像に目も心も奪われます。
その秘密を解こうと奔走するふたり。
軽い挫折なんてなんのその、自らの能力と価値を信じているクローディアは、さらに動き回ります。
そして、とうとう天使像の秘密に到達するのです。
自らの秘密と引き替えに。
そのとき、クローディアは、本当に価値のあるものがなんなのかを知ります。
真に秘密と呼ぶべき価値を持つものを。
ページを閉じてから、再び「メトロポリタン美術館」の歌詞を味わいます。
どうしても不可解だった最後の一節が、今度こそ真に迫って聞こえてきます。
大好きな絵の中に 閉じ込められた
クローディアの秘密とは、家出をしたことでも、メトロポリタン美術館に住んでいたことでも、天使像の作者が誰なのかということでもありません。
それらの秘密の答えを指し示す一枚の絵、その絵を所有し、けれど公表しないことで得られる無限の可能性。いくらでも広げられる想像の翼。それこそがクローディアの秘密なのです。