監督・脚本:塚本晋也
2004年/日本

事故ですべての記憶をなくした博史は、医学書にだけは興味をしめし、医学部に入学する。そして解剖実習で、博史の班には若い女性の遺体が割り当てられた。空白を埋めるかのように解剖自習にのめり込む博史は、失った記憶を取り戻しつつ、現実とは異なる、記憶を超えた世界を生きはじめる。それは、涼子という女性と自分とが一緒に過ごす甘く切ない世界。現実を見失い、死体さながらになっていく博史。一方、実習室では、そんな博史に女子学生・郁美がもどかしい想いを抱えて詰めよっていく…。
解剖、とか、内臓、という単語に弱い人は見るのがちょっとつらいかもしれません。
でも、そうした肉としての人間、現実の物体としての人間のディテールを追っていくことで、はじめてこの作品の幻想的にして幻惑的な雰囲気が醸造されたことは確かです。
この作品は、二つの場面に分けられます。解剖実習室を中心とした、博史の現実の世界。これは、コンクリートと人工的な光で作られた世界です。もう一つは、涼子と過ごすもう一つの世界。こちらは、太陽があって緑があって海がある、自然の世界です。
この二つの対比。
驚くほど鮮明な画面でした。
そして解剖実習が終わるとともに、二つの世界は融合します。
コンクリートと人工灯の世界に太陽の光が射し、緑が現れる。
そこは火葬場。
遺体が荼毘に付され、そこで終わるのかと思いきや、暗転の後にワンシーン。
ああ、そうか。そういうもんだよなぁ、と実感するにつれ、涙があふれてしまいました。
ヴィタール
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