監督:小泉堯史
2006年/日本

何を喋っていいか混乱した時、言葉の代わりに数字を持ち出す。それが、他人と話すために博士が編み出した方法だった。
相手を慈しみ、無償で尽くし、敬いの心を忘れず、常に数字のそばから離れようとはしなかった。
博士が教えてくれた数式の美しさ キラキラと輝く世界──。
80分しか記憶がもたない天才数学博士と家政婦と10歳の息子。
驚きと歓びに満ちた日々が始まった。
驚くほど淡々とありのままを描写する映画で、そのなんとも言葉では表現しにくい間(ま)がいかにも日本映画らしく、実に心地良い作品でした。
数式、数学と聞いただけで敬遠する人も多いかと思いますが、それはもったいないですよ。
僕は文系人間なので数学のおもしろさやうつくしさについて語る言葉を持ち合わせませんが(ここで言葉でなにかを定義しようとするのが、すでに無粋の極み、文系の悪い点だと思うのですが、これだけはどうにもなりません)、それでも、数学の、数式の、数字の潔さにはときたま感服します。
数学ってこんなにおもしろいものなんだなぁ、と素直に教えてくれます。そして、そこを通して、学問の本質やものの見方についてもそっと耳打ちをしてくれる作品です。
野球の練習中、ルートが転倒してしまいます。
病院で検査を受けたあと、呑気な監督に家政婦さんがつい言っちゃった言葉。
それに激しく傷ついた博士。
「博士のあんなに悲しそうな顔、僕は絶対忘れない」
その夜、ルートが言ったこの言葉こそ、なによりの真実でした。
ぼろぼろ涙が出て、思わず嗚咽を漏らしそうになりました。
たとえ博士の記憶が80分しか保たなくて、傷ついたことすら忘却してしまうのだとしても、自分が記憶している限り、それは紛れもなく真実として残るのです。
深津絵里、寺尾總、吉岡秀隆。キャスト的には大満足で、これ以上はないくらいにすばらしかったと思います。
その中でも特に光ったのが浅岡ルリ子。
深く激しい嫉妬と独占欲に身を冒されたいやらしい婦人を、ものの見事に演じきっていました。感服。
博士の愛した数式
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