監督:黒土三男
2005年/日本

下級武士である養父のもとで成長する牧文四郎。父は藩の派閥抗争に巻き込まれ、冤罪によって切腹を命じられる。ある日、筆頭家老から牧家の名誉回復を言い渡される文四郎。しかし、これには深い陰謀が隠されていた。文四郎は、藩主側室となり派閥抗争に巻き込まれた初恋の人・ふくを命懸けで助け出すことになる。
歴史小説は読んでも、描かれる人物を目的に選んでばかりいました。そのせいで藤沢周平は未読、『蝉しぐれ』も読んだことはありません。NHKのドラマもちゃんと見てはいなかったし。でも、映画館で予告を見たときにふるえてしまって、どうしても見たかった作品でした。
物語自体はいいですね。分かりやすい。
ただ、期待が大きすぎたせいか、がっくりくる気持ちも大きかったです。
木村佳乃、あんまり好きな役者じゃないんですよねー。チラシ見ても違和感が拭えない。でも、予告で動いてる姿を見たときには、まぁありかなと思ったんですよ。実際見てみると、良い演技するじゃないですか。言葉をまったく出さずに表情だけで感情を見事に演じきったシーンを見て、ちょっとどきどきしました。
あと、伏線。そっと裾を握りしめる手つきで泣きました。あそこだけで十分だよ。この作品で最大の感動でした。
なんというか、日本らしさを追求した“泣ける”作品だったと思います。
語らないからこそ見えてくるもの。言葉にしないからこそ胸に迫ってくるもの。ただ見せることで魅せられるものもの。
遺体を引き取って帰るシーンは、その極致だったと思います。子役のあの二人いいなぁ。ぐっと来ましたよ。
でも、始めに書いたように納得いかないところもあります。
確かに「免許取りだ」、という言質はありますが、文四郎のあの強さはどうなの。立ち合いでは駄目駄目だったのに。あれだけの人数に囲まれて、しかも初めての実戦で、初めての人斬り。あれだけの手傷で済むの? あんなに激しい殺陣は要らないんじゃないのかなー、と思ったり。ビジュアル的な見映えが欲しかったのかしらん。要らないと思うんだけどね。
そしてなによりふくの扱いが薄すぎるんじゃないかと。
文四郎に迫るのはもちろんだし良いんだけど、ふくにももうちょっと寄っていけば良かったんじゃないかなぁ。まだ子供時代はともかく、大人になってからのあれはなぁ。
男を支えるのは女ですよ?
最後のシーン。
あのわずかな時間と、「ふく」というたった一言だけで、すべて報われるんですよね。
あそこを見ていると、日本人で良かったなぁ、としみじみ思います。この密やかで荒涼とした幸福感を、大切にしまっておきたいと思います。
蝉しぐれ
http://www.semishigure.jp/