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マイケル・サンデル / 早川書房

興味はあったんですがわざわざ手元に置くほどでもなく、けれど図書館で借りたら期限内に読み切れる自信もなかったので躊躇していましたが、電子書籍なら場所も取らないし値段も少し安いしまぁいいかと思って手を出してみました。

哲学書ではなく、哲学の紹介本が哲学史の概観となってしまうのは仕方のないことだと思います。
本書も様々な哲学者の考え方を紹介し、それらを通じて現代社会における「正義」をあぶりだす、という構造になっています。
哲学に興味を持ち、一度でも哲学書をひもといてみた方なら分かると思いますが、哲学書って「これは本当に日本語か?!」ってくらいに難解なものが多いです。

本書のすばらしいところは、紹介されている哲学者の考え方すべてに実際的な事例を当てはめ、哲学を身近に引き寄せているところです。 そのおかげで、ずいぶんすんなりと読むことができます。
さすがに対話型講義を得意とするサンデル教授の著作らしく、読み手に語りかけるかのような語調で書かれる文章は適度に押し付けがましく、こちらを置き去りにすることはありません。
なるほどどうして、アメリカ的思考を学ぶには、最適な入門書なのではないかと思いました。

うん、そう、アメリカ的思考――アメリカ的「正義」を学ぶためならば。

本書は徹頭徹尾アメリカ的。
“これからの「正義」”と銘打っているのに、東洋哲学にまったく触れられていないのは残念で仕方ありません。
実は、本書にとって、前述の長所はそっくりそのまま短所にもなっています。
事例を通して哲学に触れるということは、わかりやすい半面、その事例に縛られてしまうことになります。もともと答えありきで、著者の誘導したい答えを導き出せる事例を紹介することで、読者をコントロールできるんですね。一般的、普遍的でないと言えばいいのか。

あ、いや、だからといって本書やサンデル教授が悪いと言いたいわけではありません。
きちんと自分の思考を整理し、筋道を立て、それに沿うように言を運ぶにはどのように進めればよいのか。そしてそれに見合った事例を集め、かつ分かりやすく解説する。
もちろん、こうしたことは言うほど容易ではありませんし、それをやってのける手腕は素晴らしいものだと思います。
ただ、看板に偽りあり、かな、と。
まぁ、アメリカだから仕方ないんでしょうけどね。

それともうひとつ残念な点。
サンデル教授はコミュニタリアンであり、本書の最終的な結論は「コミュニタリアリズムが最適解である」というところに落ち着きます。
そこに至るため、さまざまな事例を持ち出し、「功利主義的考え方ならこうなる、リバタリアリズムならこうなる、確かにある部分では正しいかもしれないけれど、なんだかいまいちしっくりきませんね」ということを延々と繰り返すわけです。
確かに個々の事例について見ればその通りで、消去法的にコミュニタリアリズムがいいように見えるのです。

が。

肝心のコミュニタリアリズムに関する記述が存外少ないように思いました。
コミュニタリアリズムについて、もっと読者を置いてきぼりにしてもいいから、サンデル教授自身の考え方を事例を交えずに書いてほしかった。
残念です。


「哲学」というより、自分の都合のいいように場をコントロールする話法、論の進め方という点で、非常におもしろくためになる本だと思いました。
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