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梨木香歩 / 筑摩書房
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カヤックで漕ぎだす、
豊かで孤独な宇宙。
そこは物語の予感に満ちている。


図書館の新刊コーナーで見つけ、梨木さんの新作だ!と思って飛びつきました。
今作は「水辺」に関わる梨木さんのエッセイ。

これは他の作品を読んでいても感じることなのでいまさら自明のことなのですが、この人の描写する自然は、本当にうつくしい。たとえ同じものを見ていたとしても、僕の目に映るものと梨木さんの目に映るものでは、後者の方が圧倒的に豊かであろう、と思います。
そして、小説とはまた違った語り口。
小説よりもいくぶんか散文的。思考を文章へと加工する過程を数段階省略したかのよう。
それが、また、彼女の感性をそのまま写し取ったようで、そこに描かれる自然のうつくしさを際だたせる。


そしてなにより、この本を読んで衝撃を覚えたのは、「風の境界 2」という項に出てきた一節。

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 ほとんど流れがないのを良い事に、風がないときはパドルを置いて本を読む。万一他のボートが来ても良いように、少し大きめの「沼地」で。シャラシャラシャラ、と枯れた葦は微かな風にもすぐ反応して音を立てるが、それは静けさを彫り込むような効果を辺りにもたらす。
 本当に静かだ。
 背もたれにもたれて読書に没頭していると、時折自分の今いる状況を忘れて気がつけばいつのまにか葦の群落の奥に入り込んでしまっている。
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なんという贅沢!
アウトドアに微塵も興味がないので、きちんと読み切れるかな、という心配はこの時点で雲散霧消、あっという間にカヤックの、そして水辺の魅力に引きずり込まれるひとときでした。


まだ書物が貴重だった時代ならともかく、この、物質も情報も反吐が出るくらいにあふれかえる現代において、「なにを読むか」は、決して贅沢たり得ません。確かに稀少本は存在しますが、絶対に読めないということはない。
では、読書においてなにが贅沢たり得るのか?
それは、「どこで読むか」に尽きると、僕は思います。

たとえば喫茶店(おしゃれなカフェ、ではいけない。できれば、一見さんが足を踏み入れるのにたたらを踏むような店が良い)。美味しいケーキとお茶があり、壁一枚隔てたそこには住宅街が広がるのに、明らかにそれとは異質の空間。低く抑えられたBGM(もしくは他の客がお茶を飲む音や店の主人が仕事をこなす音だけが支配しているのも良い)。
ゆったりと、だが確実に流れる時間。
その中でページをめくることのよろこびといったら! あらゆるものを超えた贅沢がここにはある、と心の底から実感します。

しかし、いま、ここで梨木さんが見せつけてくれたこの空間。これは、も、それを上回る贅沢かもしれない。想像するだけで身が震える。

ああ、カヤックに乗ってみたい。なにより本を読むために。
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