福島鉄平 / 集英社

一万両貯めるという夢を持って懸命に働く札差の華屋加四郎。だが、目標の達成直前に千両を貸した浪人侍・田丸広之進がなんと借金の踏み倒しを画策していた!! 怒りに燃える加四郎がとった行動に伍助たちは!?
あらすじにもある札差編クライマックス。
子供を人質に取り、一旦は逃げ切ったかに見えた田丸ですが、そこで言ってはいけない一言を言います。
「じゃキクちゃん お父さんによろしくね 夢だの志だのってそんなモンに振り回されないでさ テキトーに生きないとバカ見るってさ」
この言葉に、伍助はいまにも切り落とされる吊り橋を駆け抜け田丸をぶちのめします。
それを見ていた加四郎に摂津さんが言います。
「あの宇田川伍助ってなぁホントどーしようもねぇヤツでな ダメ侍を絵に描いたようなヤツだったんだけどよ… でも嫁もらってからは 剣振るって 道場作って “天下一”なんて目標まで掲げちまった…
自分の為になんか 頑張れねぇんだよ アイツァ」
いやぁ、いいですねぇ。きゅんきゅんします。
実にツボを心得たドラマを見せてくれます。
また、この件が解決したあとに加四郎からの呼び出しを受け、てっきり御馳走されるものだと思い食事を抜いたまま出向く伍助と摂津さん。
しかしそれは単純に仕事の斡旋でがっかりしてしまいます。
ところが、その後改めて食事に誘われます。が、ここで二人は盛大に腹の虫をならしながら、
「ワリィな オレたちゃ…」
「うむ! 今 たらふく食べてきたところだ!!」
と断ります。武士は喰わねど高楊枝、と言ってしまえば確かにそれまでかもしれませんが、ここにもちゃんと意地と見栄だけではない理由があって。
加四郎は一万両を貯めるという目標のために働きづめで、娘のキクと一緒に食事を取る暇もありませんでした。キクはそのことを言葉にはしないけれど、とてもさみしがっていて、いつも生米をかじるという奇癖の持ち主です。しかし、今回の件に決着がついたときに、とうとうキクはその思いを口にし、加四郎はこれからは一緒にご飯を食べような、と約束をするのです。
だからこそ、↑のようなことになるわけです。せっかく得た親子の時間を邪魔するわけにはいかないからね!
あああ……! もう、たまんないなぁ。
そして、この札差編に続くお月見編。
侍らしさとは? という、テーマを浮き彫りにし、うさぎ道場と講武館──というか、伍助と清木の対立姿勢を明確にします。
これで一本芯がきっちり通り、物語が音を立てて転がりだしました。
あとはジャンプの毒に冒されすぎず、かといって浮きもしない程度にきっちりとドラマを見せ続けていってもらいたいものです。