椎名軽穂 / 集英社

クリスマスも終わり、むかえた年末。家の事で忙しい風早とはなかなか会えないけど、誕生日でもある大みそか、年越し直前に風早から電話が!? そして爽子の新しい1年が始まります!
前巻までで、爽子のみならず、矢野ちんと千鶴の方の恋も一区切りがつきました。
主要登場人物全員がしあわせなのはいいですね。見ていてほっこりする。
惚れた腫れたがメインの少女マンガだと、登場人物がくっついたり離れたり誤解したりすれ違ったり、巻を重ねるごとにいやもうほんといい加減にしろよ、バカなのこいつら? と思う展開が延々だらだらと続いたりするもんでうんざりすることが往々にしてあります。
今作も爽子と風早がくっついちゃって、そのあとにくるみちゃんとかケントが出てきたときはそうした方向に進むんじゃないかとひやひやしたもんでしたがなんのその。
好きになって、お互いを知っていって、告白してハッピーエンド!
ではなく、告白して、その後をちゃんと維持していっているのがいいところ。
相手のことを知りたい、自分のことを知ってほしい、理解したい、理解してほしい。
きちんと言葉と気持ちを尽くし、お互いの信頼関係を着実に深め合っていく様子が描かれていて、マンネリ感とうんざり感と無縁なのがうれしい作品です。
今巻ではとうとう2年生の大晦日~新年が過ぎ、爽子たちの目の前には「進路」が具体性を伴った事項としてあらわれてきました。
恋愛関係だけじゃない、こういう「それ以外」の壁があらわれて翻弄される少年少女の姿というのはいいですね。青春、って感じ。それにほんのりお互いのラブが寄り添ってくると甘酸っぱさ3割増しです。
当然、世の中恋愛だけで回ってるわけはないけど、それだって重要な一要素ですからね。
進路を巡って、これからひと波乱ありそう。
高校卒業後の進路って、就職するのか進学するのかに加え、地元に残るのか別天地へ出ていくのか、という選択肢もありますしね。悲喜こもごものドラマが予想されます。
いまはまだちっちゃくまとまっている彼ら彼女らですが、果たしてどうなることやら。
爽子なんて、自分の可能性が自分の想像の範囲外に数多あることにようやく気付いたばかりですからね。
今後が楽しみです。
今巻の主役は、表紙にもなっているピンこと荒井先生。
進路が問題となってくるエピソードですから、担任が大きく関わってくるのは当然のことですが、それにしてもピンかっこいいぞ。
いままで適当で子供っぽくてわがままで精々がパワフルでワンマンな近所のお兄ちゃん的存在だったピン。確かにところどころではっとするようないいセリフをぽろっとこぼしていたりはしましたが。
今回は、まさにその「いいセリフ」だらけ。
ピンが野球のプロのスカウトを蹴って教師になったという話を聞いた矢野ちんが、進路に関する話の最中にピンに痛いところを突かれます。
「おまえ なんか全力でやったことやったことってあんのか? なんでもいーよ 勉強でもスポーツでも 恋愛でも」
その言葉が痛すぎたため、つい矢野ちんは「あんただって失敗すんの怖かったんじゃないの」「なんで教師になってんの」「ちゃんと無難選んでるんじゃん」と言ってしまいます。
それに対するピンの返答。
「無難ねぇ… 別に どー思われてもいーけどな やりたかったんだし」
「…………なんで…… 先生になったの…」
「やりたかったんだよ 高校野球をもう一回」
ぎゃー! カット割りのかっこよさも相まって、ここで鳥肌立ったー!
ピンかっけー。ただの単細胞熱血バカじゃなかったんだ……。ごめん勘違いしてたよ、ピン。
そのほかにも。
進路面談で、就職希望だという爽子にピンが言った言葉。
「自分には無理だとか向いてないとか つまんない理由ではずした選択肢はなかったか?
お前の能力はな お前が思ってるより高いぞ だけど おまえにはそれよりもっといい長所があるぞ」
「おまえはな どこ行っても 何やっても 頑張れる!」
「ちょっとすげーぞ」
泣いた。ピンかっこよすぎ。
あと、爽子と矢野ちんに向かってラーメン屋でいうセリフとかもめちゃくちゃかっこいいんですが、なんか引用ばかりが長くなるので割愛。
とにかくピンの名教師ぶりがやばい。かっこよすぎてやばい。
彼らの高校生活もあと一年。
どんな風になるのかなー。