緑川ゆき / 白泉社

貧しい村ニオルズの少女セツは、幼なじみのルカを探しに王都へ。王の血をひく彼が王位を継ぐべく旅立ったのは5年前…。しかしやっとの思いで会いに行った彼女の前に現れたのはまったくの別人だった──。
第一話を読んで、「おお、上手い」と唸りました。
この作品が掲載されたLaLaDXは基本的に読み切りが主な雑誌なのですね。なので、この第一話はきちんと完結しています。しかし、いくらでも広げられる。この設定なら。
かと言って、語り足りないのではないのですよ?
着地点がねー、上手いんですよ。いくらでも続く地平を覗かせつつも、説得力と余韻を残すのですよ。
まぁそんな感じなので(どんなだ)全体を見渡してみても、結構安心して読めました。
ラストの畳掛けは、多少舌っ足らずな印象も拭えませんが。ルカとキラとナギの真意をもうちょっとセツ自身に絡ませて展開していけばもっとおもしろかったのではないかと思います。それぞれ、各自のモノローグで思いを綴り、一人で完結していくのがもったいなかったなぁ。ページ数が足りなかったんでしょうか。おもしろいだけに非常に残念。
さて。
この作品はルカという名の少年を追い求める一人の少女と一人の少年の物語なのですが、読んでいるとどうしてもある少年を思い出しました。
『西の善き魔女』のルーンです。
広大で茫漠たる世界のたったひとつの希望、この世の絶望のすべてを背負ってもまだおつりの来るたったひとりを全身全霊で追い求める姿がそっくりです。
“ルカ”をキーに紡がれる物語は、“ルカ”不在のまま彼のあたたかさのみを天井知らずに増幅させていきます。画面の端々、いわゆる行間から立ち上るとでも言えばいいんでしょうか。そのかけがえのなさ、無尽蔵にふくれあがる愛情にあふれていました。
「──彼を頼むよ 僕の親友なんだ」
「親友? ──私は?」
「───さぁ わからないな」
「大切すぎてわからない」
一番の見せ場とも言える、ルカとセツの再会のシーン。
あの透徹した瞳! 万感の思いを込めた微笑み。最小限しか言葉を用いず、それどころか表情さえ最小限しか用いず、最後は手だけで会話する二人。
ぶわっと鳥肌が立ちました。
どんな言葉をも、どんな表情をも超えて、語らない・見せないことでどうしようもなく突きつけられるものがありました。ええ、そこには確実に。ありました。