とうとう分派してしまいました。あとは流れるだけ。
佐幕、倒幕、尊皇、攘夷。
いろいろな主義主張が入り乱れ、それぞれの志を胸に生きる若者の姿を見ると清々しい気分になります。日本という国の行く末を真剣に思い、命を賭して生きた若者がたくさんいたんですよね。この時代には。
といってもたった100年ちょっと昔の話なんですけど。
彼らがいまの日本を見たらなんと言うんだろうか。
まぁ、戯言はさておき。
新選組が幕臣に取り立てられることとなり、新選組に残った伊藤派の二人が切腹覚悟で脱走を試みるつもりだと中村五郎に打ち明けます。それを聞き、なにを馬鹿なことを、中村五郎がその短慮にあきれ返り、
いずれ武士(おとこ)が選んだ道だ 死ぬ覚悟だって言うんなら好きにやってみりゃあいいんだ!
と同士を見限る場面。
そのすぐあとに、中村五郎はちょっと昼ごはん食べに家に帰るという原田さんと出会います。
俺ぁこの後の仕事で死ぬかもしんねえからさ「あん時もう一度茂を見舞ってやりゃよかった」って思いながら」あの世行くの嫌じゃねえか
そんな軽口を叩きながらへらへらしてる原田さんを見て、中村五郎は思います。
己で選んだ仕事だから当たり前に命を懸ける 軽口みたいに言うこの人の臨戦(いざ)の本気を俺は知ってる 佐野さん達の"死ぬ覚悟"が薄っぺらに聞こえたのはその所為か
ちょっと贔屓目が強すぎるかな、と思わないでもないですが、この場面がとてもいいです。
頭で理屈を捏ね回して得られる実感を伴わない覚悟と、実際に身体を張った者の覚悟。
結構あっさり描かれてますけど、名シーンだと思います。原田さんかっけー。
そしてあらすじにもある「艶文」。
沖田家縁者を、ああ、なるほどこう使ってくるのか、と思いましたが、ちょっと取って付けた感があるのは否めません。だって、多くの読者忘れてない? 小花さんのこと。
けれど、やっぱり話の作り方が抜群に上手いんですよ、この人。
このエピソードはもっともっとどろどろしてていいはずなんですよ。
沖田さんなんか、
血まみれですがりついてくる小花さんが… その情念が恐ろしくて 私は 我知らず神谷さん(あなた)の名を呼んだんです――――
ですからね。ヒーローの言う台詞じゃないですよ。
でも、そこが逆に上手いんです。
沖田さんがそこまでぶっちゃけ、どん底まで落ちているからこそ、セイちゃんもヒロインなら絶対に言わない――言っちゃいけない台詞をぽろりと吐けちゃうんです。
女子ってものを全然わかってなさすぎです!! 私が今思ってる事言いましょうか? 「ああ 沖田先生私に助けを求めてくれたんだ めちゃくちゃ嬉しい」です!!
先生に抱かれてる小花さんの最期を見た時 私がどう思ったか言いましょうか? 「あぁ小花さんが死んでくれてよかった」生きてたら私はどれだけ彼女を妬んだかわからない!!
小花さんを見舞ってあげて欲しいなんて綺麗事を言いながら あの帰り道 先生に抱きしめられてどれだけ私が嬉しいと思ったか!
セイちゃん言い過ぎー。
でも、情けなくも痛々しい沖田さんの姿があるからこそ、セイちゃんのこの台詞に読者は納得しちゃうんです。
そうだよ、人間なんてそんなもんなんだよ、お互いどろどろしたき汚ったない部分ぶちまけたんだから、せめて逃げずにセイちゃんと向き合ってあげてよ沖田さん!
うん。
納得っていうか、なぜかセイちゃんを応援したくなっちゃうんですよ。
小花さんサイドにしてみたらめちゃくちゃひどい話ですけどね。
それは、まぁ、キャラクタにきちんと役割を割り振ってるというわけで、やっぱり上手いんですよね。
なんのために出てきたの? なんで死んだの? ということにはなってないわけですから。
これからはイベント(といっていいものかどうか……)満載で血生臭さが急上昇するはずなので、そこと少女マンガの部分をどう折り合いつけていくのか、すごい楽しみです。