有川浩 / 角川書店

図書館戦争
図書館内乱
図書館危機
図書館革命
別冊図書館戦争Ⅰ
別冊図書館戦争Ⅱ
『海の底』に続き、ひさしぶりの「図書館戦争」シリーズ。
初めて読んだときはずいぶんにやにやしました。いろんな意味で。
なんといっても皮肉が効きすぎてていいですよね。
ディストピア小説のまさにお手本ともいえる設定の中で、主人公をただただひたすらに純粋でひたむきな熱血バカにしたおかげで、明暗がものすっごいくっきりはっきりと見えてくる。
ありていに言えば、言葉狩りがいかに低俗で愚劣なことなのか、がシリーズが進むにつれくっきりはっきりしてくるということです。
そして、なにより上手いのはメディア良化委員会・良化特務機関を絶対的な悪役としたことです。
どうしてこんな「絶対的な悪役」が「正義」面してはびこってしまったのか。
それは国民の大多数が政治に無関心であったため。
そして、なにかを損なおうという意思と意図がはっきりしている分、「悪意」は対処ができる。しかし、「善意」は結果としてなにかを損なうことに無自覚であるため、もっとも厄介な代物である。
無関心は罪だ。ただし、罪は償うことができる。無関心でいることをやめればいい。
しかし、無自覚でいることは害悪だ。
絶対的な悪役だからこそ非難し批判することは容易で、というか当然で、本当になんにも考えなくても済むんですが、その裏側にかなり痛烈な皮肉を込めているんですね。
シリーズ1作目の『図書館戦争』。
再読してみると、あまりにも小粒で驚いた。
最終章の稲嶺指令拉致事件はもっとド派手なイメージがあったんだけどなぁ。
後から考えると、『図書館革命』の亡命事件と記憶が混同していたようでした。
その他の巻にしても、なかなかの小粒ぞろい、という印象。
小粒というと印象悪いな。
長編小説というより、連作短編集を読んでいるような感じ。各エピソード同士のつながりが薄いというか、章ごとに完結しすぎているというか。まぁその分あっさり読めるんですがね。
なんというか、もうちょっと『革命』のように一冊丸々一エピソード、という読み応えが欲しくなりました。
また、キャラクタがはっきり立っているのは過去作と変わりなく、というか過去作とキャラクタが変わりなさ過ぎるところが少し難点。
別に奇抜なキャラがほしいというわけじゃないけど、『戦争』時点では「記号化されたキャラクタ」だなぁ、と感じてしまう。
(それでも、それだからこそ、「本を守る」ためという信念を貫き通すシーンはただひたすらにかっこいい。見計らい権限のシーンはやはりすばらしいなぁ)。
ですが、それが徐々に巻数を重ねるごとにエピソードが積み重なり人間らしさを獲得していく。
有川浩と言えば、エンタメとベタ甘恋愛。
このべったべたに甘い恋愛展開の積み重ねが、もうびっくりするくらいの効果を発揮して。確かに考えてみれば、恋愛って個人のエゴとエゴががっぷり四つに組み合ってのせめぎあいなので、これほど人間臭い駆け引きもはほかにそうないかもしれません。
それがベタ甘だということは、それだけ濃厚だというわけで。
いままであんまり意識したことなかったですが、恋愛展開には意外な副作用がありますね。おもしろい。
ところで、『戦争』時点では郁の王子様は正体バレしてなかったんですね。
そんなことすら忘れていた自分にびっくり。
そしてそのやり口の上手さにニヤリ。
バレてないけど惹かれてる、バレたから悩み苦しむ。この葛藤と煩悶はなかなか見応えがありました。そしてそのすべてをベタ甘に変換してしまう有川浩すげえ!
全部読み終わって思うのは、堂上がんばれー、という気持ち。報われなさすぎだろ。いろんな意味で。
上司、同僚、部下、果ては恋人(のちの配偶者)に恵まれすぎ。いやー、うらやましくねえ。
柴崎の立場が一番いいな。絶好のウォッチ物件。
あー楽しかった。リフレッシュリフレッシュ。