文藝春秋

「乙女座の夫、蠍座の妻。」 吉田修一
「時速四十キロで未来へ向かう」角田光代
「本を読む旅」 石田衣良
「慣れることと失うこと」 甘糟りり子
「この山道を……」 林望
「娘の誕生日」 谷村志穂
「遠い雷、赤い靴」 片岡義男
「夜のドライブ」 川上弘美
うわ、なに。
これは甲乙つけがたい傑作揃いだ。
すばらしい。
ここではない、どこかへ。
あなたと、ふたりで。
というコピーが裏表紙に書いてあるのですが、ここに収録されている作品はみんなそんなお話なんです。しかも、もうすでに何十年も前に終わった恋を振り返る、というタイプが多い。なのに、全然被った感じがしないんです。
どれもこれもそれぞれにうつくしくおもしろい。
やっぱり、作家ってのはすごい職業です。
ここではないどこかへ、というと、どことなく逃避の香りが漂います。
いま、ここ、以外のいつか、どこかへ。
逃避、逃げる、というと、マイナスイメージを抱く人が多くて僕は心底驚くのですが、逃げるというのは決して悪いことではないと思います。
そういう意味で、ここで描かれるのは、とても良い逃避ばかりでした。
登場人物の誰もが前向きなんですね。ていうか、全肯定なんですよ。
自分を全肯定、過去を全肯定、未来を全肯定、失うことも全肯定、得ることも全肯定、生きていることを全肯定。
そういうものの考え方もあるのですよ、がむしゃらに突き進めばいいってもんじゃありませんよ? という、そんなアンソロジーだったと思います。
あ、あと、「娘の誕生日」に、ほんの数日前に『星に願いを』の中の「2月29日」を読んで思った“誕生日に関すること”がぽんと出てきててびっくりした。
こういう偶然があると、それ以上のものを感じてしまいますね。
世界とのシンクロニシティ。
アンソロジーって、実はすごく豪華でおもしろい読み物かもしれない、と気づき始めた今日この頃。
さがせばもっとたくさん出てくるかなー。