柴崎友香 / 新潮社

わたし、昔の大阪の写真見るのが好きやねん。その、どきどきの中毒みたいな感じやねん─―。
過ぎ去った時間の上に再生し続ける街の姿に、ざわめく28歳の気持ちを重ねて描く。
この人の文章は、距離感がとても絶妙。
読者とキャラクタ、そして作者がぎりぎりの接点で辛うじて触れあっている。そんな感じ。
この作品の前にもいくつか読みましたが、どれもこれも物語というものはほとんどないです。
ただただ日常。
そう、日常なんです。
文章を媒体に、物語ではなく、空気を現出する。
大阪の空気。
大阪に生きる、若者の空気。
この、物語ではなく空気を描き出す、という性格は江國さんとよく似ています。
しかし、江國さんと柴崎さんでは決定的に違います。
江國さんは、フィクションであることを突き詰めていく手法により、人間の存在そのものを描き出します。
柴崎さんは、フィクションに限りないリアルを注入して、あたかもリアルの中にフィクションを混ぜ込んだような風景を描き出します。
濃度が違いすぎる。
一歩どころか、半歩間違えば単調で退屈な文章となるところを、薄めることの出来るぎりぎりのところで見せてくれるのです。
ゆる〜い小説ですが、そのゆるさを感じられるということがこの作品の最大の見所です。
しかし、なんとなく、この人の文章は歯切れが悪い。
過剰な修飾があちこちに散見するんです。
なんとなく据わりが悪い。
もちょっとすっきりした文章だと最高なんですけどねぇ。