日日日 / 新風舎

「ちーちゃんこと歌島千草は僕の家のごくごく近所に住んでいる」──幽霊好きの幼馴染・ちーちゃんに振り回されながらも、「僕」の平穏な日常はいつまでも続くはずだった。続くと思っていた──あの瞬間までは。
怪異事件を境に、ちーちゃんの生活は一八〇度転換し、押さえ込んでいた僕の生活の中の不穏まで堰を切って溢れ始める……。
疑いもしなかった「変わるはずがない日常」が音を立てて崩れ落ちていくさま、それをただ見続けるしかない恐怖を描いた、新感覚のジュブナイル・ホラー。
映画のオチがあまりにも気持ち悪い……あれは原作に忠実に作ったものなのか、だとしたら一体どんな話なんだ。または映画オリジナルだとしたら一体原作をどう読み解きどう解釈すればあんなのになるのか。
というわけで、つぎの上映まで時間があったので買って読んでみた。
……。
先に映画を見ていたのでその頭で読み始めると、いきなり設定が違うのであれ? となりましたが、少し読み進めるとこれは別物なんだなということが分かります。それならそれで、と頭を切り替えて読むことに。
なるほどどうしてそういうことか。
思わず唸ってしまいます。
もろもろの事情により、原作をそっくりそのまま映画化できなかったであろうことは想像に難くありません。
暴力、虐待、狂気。
いやはやまったく、なにか事件でも起ころうものなら“良識ある識者”が「悪影響を与えたメディア」として槍玉に挙げること請け合いです。
その原作から、登場人物の名前と主人公たちの関係性のみを抽出してああいう風に読み替えてしまった監督はなかなかやるなという感じなのですが、原作に遠慮したのかなんなのか、ラストシーンを原作と同じにしようとしてしまったために、ああも後味の気持ち悪い作品となったのか。
原作の通りに作っていればなかなかおもしろい作品となったのになー。
原作のラストにこだわらずに映画のテイストをそのまま貫けば(全体的な出来はともかく)後味の気持ち悪さはなかったろうになー。
原作のラストにこだわるのなら原作で丁寧に描写されている“あちらとこちら”を外してはいけなかったのになー。
うーん、なんだか二重三重に残念な結果です。
さて。
では小説としての『ちーちゃんは悠久の向こう』について。
タイトル、そして冒頭から薄ぼんやりと想像された展開をことごとく裏切ってくれました。
ほのぼのしみじみ系かと思いきや、物語はジェットコースターもかくやという勢いで急転直下、大回転を繰り返し、ありえない位置に落ち着いてしまいます。
良い意味での裏切りが横行し、エンタテイメント性の高さが際立っている文章だな、と思いました。
ただ、読んでいてなんだかこれと似たようなものを知ってるなー、という既視感があるんですよ。日日日の作品を読むのは初めてだからこの人の作風にそれを覚えているわけじゃない。
半分くらい読んだ頃に気づきました。
これ、美少女ゲーくさいんだ。
キャラクタ造形、性格設定、台詞運び、シチュエーション、舞台設定、雰囲気等々々。
『ONE』もしくは『Kanon』に良く似てる。なつかしーなー。9年……10年……? まぁ、そろそろ「ひと昔前」と呼べるくらいですか。うわー。
や、ま、それはともかく。
『空の境界』のときは設定やらキャラクタやらストーリー展開やら、も、なにからなにまでソレっぽく、「こういうのが講談社ノベルスで出るとはねぇ」とふしぎな感じがしたものですが、あれはもともとゲーム畑から飛び出た作品で、それを大きく触れ込んでの売り込みだったわけですよ。
それがねえ。
こういうのが普通に大賞でござ〜い、デビュー作でござ〜い、となるわけだ。
なんとも言い難い感慨が湧いてきます。
日日日の作品には多少なりとも期待してたんですが、みんなこんな感じなのならもういいかな。
そこのとこを見るために、もう一冊ほど読んでみたいと思いました。