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劇団 本谷有希子


10代でケータイ小説を発表し、デビューした女性作家ひろみ結城。一時は人気を集めたものの、実体験を元にした作風に路線を変更してからは人気が急落、今では周りから道を踏み外したと思われている。
それでもある程度のファンはついていて、呑み屋のママで毒舌家の甘田とトークショーを開催している。
そんな折、編集プロダクションに勤める二見から、ひろみに宛てた手紙が届く。手紙の内容は、ひろみと甘田のトークショーの場を利用して、今までにない本を出したいというもの。
いつも通りのイベントが行われたあと、ファンの中でも"本気で応援している"面々が選ばれ、再びイベント・スペースに集まり出す。
ひろみと甘田、そしてひろみのファンたちを目の前にして、このイベントの本当の趣旨を説明し始める二見。こうして未だかつてない"トークショー"の幕が上がった……。

仕事の都合で一昨年、去年と見れなかったので、実に三年ぶりの本谷観劇でした。堪能したー。

幕が上がってまず気になったのが、役者の多さ。まぁ、トークライブって設定だからはじめはモブがいて、あとから絞るのかなーと思っていたら、そうではない模様。
人数が増えることでエグみが分散されやしないだろうか、という心配が頭をよぎりましたが、結果的にそれは杞憂となりました。
長澤まさみ、リリー・フランキー、成河、安藤玉恵、吉本菜穂子+その他大勢。この作品は、結局この五人(?)芝居だったのです。舞台上は賑やかしいけれど、芝居の構成人数はいつもとほとんど変わらないのでした。

本人も言ってましたが、この作品は「つながり」がテーマで、「人と人のつながりの良い部分と悪い部分を書きました。」ということらしいです。というか、そんなの明言されるまでもなく、もうわかりやすすぎるくらいにわかりやすく、見ていて安心感を覚えるほどです。

「人が人とつながりたいなんて暴力です。あなたたちはモンスターなんです」

というひろみの台詞が、この作品のテーマを如実に物語っています。
そして。
この作品に限らず、本谷有希子作品に共通する普遍的なテーマ、「自覚的な悪意を肯定し、無自覚な善意を否定する」が「つながり」と手を結ぶことで、恐ろしいくらいに醜悪な状況が舞台上に再現されてしまいます。
それは、「名前を持った一人の人間としてはなにも言えないくせに、大勢とつるみ、集団となることで攻撃性を得る人々」です。
真貴ちゃんに詰め寄られたときには一言も発せられず、目すら合わせられなかった人々が、集団となることで真貴ちゃんを嘲笑し、侮蔑し、揶揄する。そしてその中の誰一人としてそのことに気づいていない。自分たちがなんて醜悪な人間であるかを晒していることに全くの無自覚で、それどころか、逆に自分たちが正しいと信じ切っている。ああ、なんておぞましいことでしょうか。
この芝居の中で、もっともぞっとした場面でした。

それに対し、ひろみと真貴ちゃんの痛快なことといったら!
自らのことを「ゲテモノ」と言い切り、他人に嘲笑され哀れまれることよりも個人であることを重要視する。それぞれが依存関係にあるようなものですが、お互いが集団に埋没することを良しとしないので、この二人はべたべたしているようで最低限の「つながり」しか持っていない。
この二人が寄ることで行われるのは、傷の嘗め合いではなく、傷のえぐり合い。
相手の欲しいものに無自覚に、自分の立場や言葉に酔って押しつける善意なんてクソ喰らえ、自覚的に与えあう悪意の方がよっぽどマシだ、という感じでしょうか。

「あなたのために」はグロテスクな押しつけであり、「自分のために」という意識を常に持つことが、良い「つながり」を作る唯一の方法なのでしょう。


善意と悪意はどちらがよりたちが悪いのか。
突き詰めた先に、両者の違いはあるのか。
人間ってもののおもしろさが、じゅくじゅく滲みだしていました。

やっぱり僕は本谷作品が大好きです。


劇団、本谷有希子
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