伊藤遊 / ポプラ社

マンションの放火騒ぎの翌日、ほのかはエレベータの中に、こわい顔をした奇妙な置物があるのを見つけた。それ以来、ほのかと兄の雄一のまわりで不思議な事件が続く。ほのかはなぜか隣のおばあさんと土蔵にひかれてゆくが……。
長い時を経て魂を宿した道具たち、<つくも神>の物語。
図書館をふらふらしていると、伊藤さんの名が目に止まったので。
『鬼の橋』、『えんの松原』を読んだのはずいぶん前のことですが、和風ファンタジーとしては結構好きな作品だったと記憶しています。それ以来、そちら方面で名前を聞かなかったので、他に作品を出していたとは知りませんでした。
で。
この作品はその名もズバリ『つくも神』ですし、前述の二作と似た感じなのかと思ったのですが、読んでみると全然違いました。
舞台は現代。子供の微妙な人間関係や大人の見苦しい人間関係を織り込みながらも、それらに依存しない良作でした。かといって、つくも神に焦点を当て、ものを大切にしようとか、そういう訓話めいたものかというと、それも違うのです。
それぞれがほんのちょっとずつ触れあって、寄り添っているのだということを匂わせるだけ。問題はいろいろあるけれど、解決はしません。答えは与えられない。でも、本を閉じた後、きっちりと見通しは立っている。
その、一見すると分かりにくいかもしれないけれど、かぎりなくやさしい視点に清々しい気持ちを覚える作品です。