梨木香歩 / 偕成社

「…人形のほんとうの使命は生きている人間の、強すぎる気持ちをとことん整理してあげることにある。木々の葉っぱが夜の空気を露にかえすようにね。」
過去ある人形たちの声がきこえる
おばあちゃんがくれた、りかさんという名の人形との出逢いが始まりだった。
ようこはりかさんの声を聴き、人形たちにも思いがあることを知る。
人形たちは持ち主の思いをストレートに汲み、それを抱え続けます。大切に扱われた人形は気だての良い人形になり、そうでない人形は、そう扱わざるを得なかった持ち主の悪い気を受け取って、還元するのです。
りかさんは、ほかの人形の思いをまるでスクリーンのように空中に映し出すことができます。ようこはそれに感心しますが、りかさんはなんでもないことのようにこう言います。
─これだけこれだけ。私にできるのは思いの橋渡しのようなことだけ。
思いの橋渡し。
これが、どれだけ難しく大変なことか。この作品の中でりかさんに象徴されているのは、素直に相手を思いやる気持ちそのものです。そうした澄んだ気持ちだけが、環境も思考も決して同一ではあり得ない、本来なら交わることすらあり得ない、他人の思いと思いを繋ぐことができるのです。
「そうだよ。男ってしようがないね、登美子ちゃんのところのおじいさんにしろ。考えが肝心なとこまでは及ばないんだよ。でもそれを責めちゃだめだよ、そんなもんなんだからね。こっちがそれと心づもりしていればすむ話だ。」
おばあちゃん、さすが良く分かっていらっしゃる。
女性と男の出来の違いは明らかで、こんな言葉が出てくるほど確信犯的なおばあちゃんがものすごくいい女であることは疑いようがないですね。
こう言われてしまうと、もはやぐうの音も出ません。