時雨沢恵一 / メディアワークス

空には、暖かい午後の太陽が浮かんでいました。なだらかで大きな丘を登った時、丘の向こうが見えた時、キノは驚きの声を出しました。「あれ?なんでだろう」急ブレーキをかけられて止まったエルメスも、「おや」やっぱり驚きました。そこには国がありました。広い草原に、城壁が見えました。白い城壁が、大きな円を描いていました。──キノとエルメスが辿り着いたのは、城壁が続く大きな国。そこに国があるとは聞いていなかったので驚きつつ、入国するための門を探して走り続ける。しかし……。(『城壁の話』)
他、全15話収録。
『キノ』は簡潔な話ばかりなのですが、だからといって油断してかかると、そこにたっぷりと塗り込められたブラックな毒に犯されてあっという間に虜になってしまいます。
今回もさまざまな国でいろんな人がいろいろやってます。
この巻では、口絵の「なってないひとたち ─Taveler's Tale─」が一番痛快で好みでした。イタすぎ。傷口に塩を塗り込められるようで、この話を読んでそう感じる自分のダメさ加減に凹みます。
あと、「自然保護の国 ─Let It Be!─」は、物語の展開もオチも申し分ない快作。口の中にすごく苦いものが広がりますが、思わず笑わずにはいられない。そして、最後のオチのすばらしさ。このお話のすべてを凝縮した一文に、改めて感心してしまいました。