絲山秋子 / 二玄社

TVR、ジャガー、アルファロメオ……。次々と高級車に乗って現れる昔の男。徐々に徐々にクルマへの情熱を失いつつも、それに惹かれている画家の女。
クルマを中心に据えて描かれる中年男女の不器用な物語。
僕、クルマは動けばいいと思う人なんですよ。なので、ここに登場するクルマなんて全く知りませんし、さっぱり分かりません。ポルシェとジャガーの区別もつかないんですから。
なので、はじめはちょっと尻込みしていましたが、読んでいく内にそれが杞憂であることが分かりました。
クルマは手段であり目的ではありません。あくまで、作者は中年男女の微妙な関係や気持ちをクルマに託しているだけなのです。
そして、ここで描かれるクルマとは、主人公にとっての男そのものの投影でもあります。どんなクルマでも、乗ってみれば文句が出る。文句のつけようもなくスマートなクルマは面白味が無くてダメ。そして、いつしか彼女は「クルマトイウモノ」に対してどうしようもなく幻滅してしまいます。
この作品を読んで実に秀逸だと思ったのが、セックスの描き方。
全然これっぽちもいやらしくないのに、すごく色っぽい。とても事務的な描写が、逆に迫ってくる。
セックスに変な幻想や夢を託していないことに好感が持てます。
単なる身体的接触としてのセックス。
中年男女だからこそ無理なく表せる温度だと思いました。
ほんのちょっとだけ、クルマにこだわる人の気持ちが分かったような気がしました。