藤木 稟 / 角川書店
天才科学者の平賀と、古文書・暗号解読のエキスパート、ロベルト。2人は良き相棒にして、バチカン所属の『奇跡調査官』――世界中の奇跡の真偽を調査し判別する、秘密調査官。修道院と、併設する良家の子息ばかりを集めた寄宿学校でおきた『奇跡』の調査のため、現地に飛んだ2人。聖痕を浮かべる生徒や涙を流すマリア像など不思議な現象が2人を襲うが、さらに奇怪な連続殺人が発生し――。
表紙絵がTHORES柴本さんで、なつかしさから手にとってしまいました。
そして上記のあらすじを読み、心惹かれてしまったわけです。
神父にして科学者と神父にして暗号解読のプロが奇跡調査と殺人事件の謎解きをする――もう盛りだくさんですね。これでわくわくするなという方が無理だってもんです。
しかし。
期待通りの部分もありましたが、全体的に軽いのが惜しい。
なんといっても、奇跡のオンパレード。
たとえトリックがあるにしても、あんなに奇跡を安売りするんじゃあ台無しです。その奇跡のトリックも早々と暴かれるし。盛りだくさんにしすぎて、一つ一つの問題に対する解答が、証拠を提示すると同時に与えられる。読者に考える暇を与えない。
惜しいを通り越して、ミステリとしてみるとつまらない部類に入ると思います。
けれど、信仰と科学、一見すると相容れないこの二つを同居させる人間を主人公としたのはよかった。
自分はキリスト者ではないですし、そもそも家は浄土真宗ですが、自分は宗教に対する信仰はほとんどありません。
だからこそ、確固とした信仰というものに興味がある。それはいったいどういったものなのか。いまの世の中で、僕たちが進化論を信じるように、天地創造を信じる人がいるという現実。
そうした、信仰と科学の同居する部分をもっと深く掘り下げてほしかった。強固な信仰は理屈でないので、事細かに文章として著すのは難しいと思うんですが、だからこそそれを読みたかった。
ミステリとしてはつまらないけれど、そうした読み物としてみればそこそこおもしろい。
だからこそ惜しい。
どちらかに突き抜けていれば、良いか悪いかはっきりした感想が出せたんですが。
シリーズ化しているそうなので続きを読んでみたいような、けれど、文庫本のくせに結構値が張るので考えものです。うぅむ。