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小野不由美 / 講談社

月の影 影の海 上下
風の海 迷宮の岸 上下
風の万里 黎明の空 上下
図南の翼
魔性の子
黄昏の岸 暁の天 上下
華胥の幽夢

年末に『東の海神 西の滄海』を読んでから、もう一度シリーズを通して読み返していました。
今年の夏には『華胥』以来、12年ぶりの新刊短編集も出るというし、その先には新作長編も控えているというのでちょうどいい機会だし。

一冊ずつ続きを心待ちにして発売されるのを待ってから読んでいくのと、一気に通して読むのとでは、また違った味わいがあります。
それぞれの作品単体で十分おもしろいんですが、シリーズ通して同一世界で時間軸の異なる物語が展開されるので、大河ドラマのような感じです。さすがに本編となる陽子の物語は数年レベルのスパンですが、ほかの国の話となると、何十~何百年というスパンでのお話になりますからね。
厚みと深みがいい具合です。

そして、今回『黄昏』を読むまですっかり忘れていたんですが、陽子はこの十二国世界の謎にずいぶんと肉薄していたんでした。
泰の行く末も気になりますが、こちらもまた気になるところ。
どうか今回の新潮新装版での新作披露が実現しますように……。
そして、続きはまた12年後とかにならず、定期的に刊行されますように……。


十二国記は、基本的に王と麒麟の話なので、単純な物語のおもしろさとは別に、「良き王とは」「理想的な政治とは」というような、どちらかというと啓蒙書のような一面(とは少し言い過ぎかな)もあります。
いろいろはっとしたり身につまされるようなところがありますが、今回読み返してみて一番心に刺さったのは『華胥の幽夢』の「華胥」でした。

先王の圧政を批判し理想の政治を実現しようと立った新王。周囲からも傑物と評され、新朝は順風満帆かと思われた。ところが、国は一向によくならず、とうとう麒麟は病み天命が尽きようとしている。
一体なにが悪かったのか。
という舞台で、十二国記には珍しい、少しミステリちっくなお話が展開されます。
そして最後の最後、新王は自らの不明に気づき、遺言を遺し禅定することになります。その遺言が、
責難は成事にあらず

です。
何事も非難することは簡単で、そのうえで理想を語ることはたやすい。
重税にあえぐ民がいれば税を軽くしろと声をあげ、私服を肥やす官吏がいればそれをすべて更迭し罷免する。
そうして目の前にある障害を排除すれば、国は良くなるに違いない。
それはそれで確かに一面正しいのかもしれませんが、それはあくまでも対症療法であり、根本の解決には至りません。
税を軽くすればその分収入が減る。収入がなければ事業を行えない。
たとえ悪吏であっても、一気に罷免すれば人手が不足する。人手がなければ仕事はまわらない。
そうなれば、国が国として立ち行かなくなるのは火を見るより明らかです。

難を責めることは事を成すことではない。

この一言に込められた意味の重みがずしんと心に響きます。

いまの世の中が悪いのは、長年政権を運営してきた政党が悪いのだ。だからその政党を批判しその政党の政策と反対のことを主張する政党に政権を渡せば国は良くなるに違いない。
そして蓋を開けてみれば、批判する言葉は立派でも、批判することしかできない。その批判から発した政策を実現する方法はまったく考えていない。だからなにもできない。
こりゃダメだ、$これならまだ前の方がマシだった。

まったく、まさに「責難は成事にあらず」を地で行っていますね。
十二国記の世界では王が絶対権力者であり、その王を選ぶのは麒麟だから、王にこの気概があればなんとかなります。
けれど、現実はそうはいきません。なんてったって、政権を運営する政治家を選ぶのは、麒麟ではなく国民一人ひとりなんですから。我々一人ひとりが「責難は成事にあらず」の言葉を肝に銘じ、「なぜこうなったのか」「どうすれば打破できるのか」を常に考え、非難一辺倒という楽で簡単なところに逃げこまないよう気をつけなければいけませんね。


せっかく良質のファンタジーを読んだというのに、生臭い話にしてしまうなんて。本当に野暮でいやになります。やれやれ。
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