恒川光太郎 / 角川書店

大学生のいずみは、高校時代の同級生・裕司から「夜市に行かないか」と誘われた。裕司に連れられて出かけた岬の森では、妖怪たちがさまざまな品物を売る、この世ならぬ不思議な市場が開かれていた。
夜市では望むものは何でも手に入る。小学生のころに夜市に迷いこんだ裕司は、自分の幼い弟を売ったことにずっと罪悪感を抱いていた。
そして今夜、弟を買い戻すために夜市を訪れたというのだが──。
夜市、という設定、そこに出てくる人物。なんだか絶賛されていた割には結構定型だな、と思って読んでいたのですが。後半の展開に目を丸くしました。
え、あ、そうくるの。
見事にしてやられた、という感じです。なるほど、これは傑作だ。
定型──というか、なんとなくこのパターンは知っている、という程度のものですが──であるが故、読みながらある程度先の展開、結末を予測してしまう。なのに、それが裏切られる。それも、実にスマートに。これがまったく予想のつかない展開だったならおもしろさも興奮も一過性のものとなったのだろうに。そうでないからこそ、読み終えたときの感慨が一層深くなるのです。
同時収録された「風の古道」。こちらもすばらしい。こちらも表題作「夜市」同様の驚きとおもしろみがある。かといって、ワンパターンということではありません。解説でも誰かが書いていましたが、この作者、発想の転換が実に秀逸なんですね。
あと、文体。
淡々としていてスタイリッシュである語り口だからこそ、ぞっとする。
全然怖い場面でないのに、不意に怖気に襲われる。
実に上手いです。