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京極夏彦 / 講談社

夫を四度殺した女、朱美。極度の強迫観念に脅える元精神科医、降旗。神を信じ得ぬ牧師、白丘。夢と現実の縺れに悩む三人の前に怪事件が続発する。海に漂う金色の髑髏、山中での集団自決。遊民・伊佐間、文士・関口、刑事・木場らも見守るなか、京極堂は憑物を落とせるのか?著者会心のシリーズ第三弾。


「百鬼夜行シリーズ」の中で一番好きな作品。
このシリーズは、さまざまな事件・事柄が絡み合いもつれ合った挙句の無秩序状態を、京極堂の長広舌が整理し秩序を与えていき、「世の中には不思議なことなどひとつもないのだよ」という決め台詞のとおり、最終的には快刀乱麻を断つがごとく、すべてが合理的かつ論理的に説明され尽くすところが最大の魅力だと思います。

で。

百鬼夜行シリーズに限らず、推理小説の多くの作品は、一件無関係に見える事件や事柄の間に実は関連性があり、それを解き明かしていくことで、ばらばらだったものがひとつの結末に収斂していくという作りのものがほとんどです。

ところが。

この『狂骨の夢』は、その逆なんです。
さまざまな事件や事柄がわんさか登場するのは変わりなく、当初無関係だと思われたそれぞれに関連性を見出しかけ、そこではたと止まってしまう。
そこで見出された関連性は事件の解決には寄与せず、むしろさらなる疑問や矛盾を生み出してしまう。
そして完全に行き詰りかけたそのとき、とうとう京極堂が登場し憑物落しを開始します。

複雑に絡み合い、一体なにがどれと関連しているのかしていないのかがはっきりしない事件について、京極堂はひとつひとつそのディテールを明らかにしていきます。
前述のとおり、ここで明らかになったものが互いに関連し、事件の「真相」へと収斂していく――のが普通なのですが、この作品では収斂していかない。
むしろ拡散していく。
ひとつひとつの事件・事柄はそれぞれで完結してしまい、お互いが密接に関わり合っていなかったことがわかるのです。

この事件は、

・1500年を超える神代の時代から続く恨みと執念
・500年前から続く血統と権力にまつわる執念
・病身の父親を思う孝行息子の執念
・淫祠邪教とされながらも連綿と受け継がれてきた真言立川流

の4つの事柄を背景に持ち、それらの事柄に、

・幼少期の体験をトラウマとして持つ男2人
 1.トラウマからの脱却を宗教に求め、努力による回心を目指す男
 2.トラウマからの脱却を精神分析に求め、挫折した男
・不遇の人生を歩む女2人
 1.不当な差別を受け愛情に飢えた女
 2.とあるものの付属物としてしか扱われなかった女

の4人の男女が関わってしまったことで起こった、実に不幸な偶然でした。


一見無関係に見えた事柄が収斂しやがてひとつの大きな事件を形作っていく様を眺めるのは、実に壮観で、まさにカタルシスの極みです。
しかし、今回のように、本来なら交わるはずのない出来事を並べていくことで、気づいたらモザイク画のように絵ができあがっていく様といったら。
もう、なんていうか、ものすごい興奮する。
めくるめく、という表現がものすごくぴったりきます。
あぁー、も、えぇー、そうなっちゃうのー、みたいな。みたいなっつってもわかりにくいですけど。
このめくるめくおもしろさが抜群すぎるから、この『狂骨の夢』が一番好きなのでした。

ああーもうたまんねー。
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