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柴崎友香 / 筑摩書房

なんだか目の前で作業をしているうちに八年もたっちゃったよ。
自分の家族ができたら、もう少し自分のことを「ちゃんとしてる」と思えるだろうか。
恥らったり迷ったりしてる時間はないよ、うちらには。
だいじょうぶじゃない、って言える相手がいるなんて、きっととてもしあわせなことなんだろうな。
だって、何年後にどうなるかなんて誰にもわからないんだし。
そんな年頃の同級生3人。明日に向かって一歩ずつ。三人三様の一年間。

ひさしぶりの柴崎友香。やっぱりいい。大好き。

柴崎友香の作品は、どことなく物悲しい。
とは言っても、エピソードや人物造詣が悲しいというわけではありません。
柴崎さんの作品は、驚くくらい「普通」です。特別なことのない人々が、特別のない日々を過ごす。
本当にただそれだけのことなのに、なんとなく物悲しい。
たとえどんなにいいことが起こっても、どこか物悲しい。
けれど、逆にどんなに悪いことが起こっても、物悲しいで済んでしまう。
柴崎さんの作品の登場人物たちは、みんな寄る辺ないんですよね。
その拠り所のないふわふわした感じが、漠然とした不安感を呼び寄せるんですよ。
そんな中で物語が進み、エピソードが語られるため、なんて言うんですかね、なにが起こっても地に足が着かない感じがして。プラスもマイナスも、ぬるっと手の中から逃げてしまう。


この作品の主人公たち三人も、それぞれ立場は違いますが、なんとなく寄る辺ない。
真っ当な社会人として生活しながら、恋人が年下で定職に就いていない役者志望であることを家族に打ち明けられないかおり。
イラストレータとして働きながらも、絵を描くことにそれほど情熱を感じられず、向上心も持ちきれずにいる珠子。
結婚し3人の子どもを育てながら雑貨屋を開店し、婚家からわずかな距離を取る夏美。

どこがどう、とはっきり指摘できる寄る辺なさではないんです。
はっきりとした違和感、中核となるエピソード、こじれた人間関係なんかはどこにもない。
ただ、読んでいるとなんとなく不安が胸にきざす感じがする。
柴崎さんは、この「なんとなく」「どことなく」といった空気、距離感を表現するのが抜群に上手い。

この作品は前述の三人を軸に据え、一月ずつゆっくりと時を重ねていく様子がつづられていきます。
誰かが困難にぶち当たることもなく、大きな障害に道を阻まれることもなく、誰かに攻撃されることもない。
ただ積み重ねられる時間と、思い。
大きな事件がないから、当然解決もない。困難や障害もないから、大きく成長することもない。
それでも3人の女性の一年間を、きちんと物語に仕立て、読ませるんだから。
これはすごいですよ。

中でも、特によかったのは夏美の弟の彼女、レナ。
明るく天真爛漫で、誰にでもすぐ打ち解けられる彼女は、ところどころで現れることで物語のアクセントとなります。
夏美とその子供たちとも仲が良く、少し会っただけの珠子とも旧来の友達のように振る舞う。
登場当初はちょっとウザい空気の読めないギャル、という描かれ方だったのが、物語終盤ではいつの間にか頼りになるお姉さん、的なキャラになっちゃってる。
レナは徹頭徹尾レナのままなんですけど、読み進めるうちにいつの間にかポジションが変化してるんですよね。不思議なことに。
本人は特に何にも変わってないのに、初対面となぜか印象の変わってしまう人っていませんか。あれって、相手どうこうじゃなくて、その人を見る自分の内面が変化してしまっているんですよね。だから同じことをしていても違って見える。
そういう些細な、けれど大きな変化を200ページ足らずのうちに読み手に起こさせる。
やっぱりすごいなぁ。上手すぎ。
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