小林泰三 / 早川書房

核シェルターにひとり籠った男の胴体が捻り切られていた怪事、柩の中で数十カ所刺されて発見された男……。あまりにも完璧すぎる密室殺人は、本当に実行可能か!?「不可能犯罪など存在しない」と豪語する“超限探偵Σ”の華麗なる活躍を描く「見晴らしのいい密室」ほか、電子仕掛けの謎を秘めた本格ミステリ「探偵助手」などこれまで誰も見たことも聞いたこともない、精緻で巧妙な論理遊戯が導き出す唖然呆然の結末7篇。
超限探偵Σ / 目を擦る女 / 探偵助手 / 忘却の侵略 / 未公開実験 / 囚人の両刀論法 / 予め決定されている明日
京極夏彦を連続で読んで疲れてしまったので、毛色の違うものを読もうと思って。
以前読んだ『海を見る人』がとんでもねー大傑作だったのですが、ハードSFはなんちゃっての自分には少々つらく、装丁等からしてなんとなく軽い感じのするこの作品集を選んでみました。
いやはやまったく。
初っ端の「超限探偵Σ」。軽~いノリで始まり、キャラクタも典型的な記号でしかないという点で気軽さを演出しつつ「夢オチ」という反則技をSF的展開にしてしまい、最終的には物語の枠をはみ出てしまうという豪快さ。
あまりにもおちゃらけたノリだったので適当に読み流そうとしたところに不意打ちを受け、いきなり度肝を抜かれた感じです。やはりこの作者は侮れない。
今作の中では、「忘却の侵略」と「囚人の両刀論法」が特におもしろかった。
「忘却の侵略」は、エイリアンによる侵略を量子力学的思考法で攻略する男子高校生の話。
男子高校生がキレっキレの論理的思考の持ち主だからこそエイリアンと闘うことができるものの、その論理的思考によって紡がれる恋愛模様(笑)が笑いを誘う。恋愛感情も結局はシュレディンガーの猫。なるほどね。
「囚人の両刀論法」は、理想世界を追い求める男の話。
どうすれば理想の世界が実現するか。そして実際に理想世界に生きる異星人は、いかにしてそれを実現したのか。
ここで繰り広げられる思考実験は非常におもしろく興味深い。
この短編は「天獄と地国」という作品の後日譚というか前日譚というか、「天獄と地国」の世界がいかに形成されたか、というお話でもありました。「天獄と地国」は『海を見る人』に収録されていた短編で、その世界はぎりぎり想像力の限界を超えていたのが印象的でした。
どうやら「天獄と地国」は長編にもなっているようなので、今度はそちらを読んでみたいなぁ。
疲れたから、という理由での箸休め的チョイスのつもりでしたが、大いなる誤算でした。
SFおもしれえけど。これまた疲れる。