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作:新津孝太 演出:浅井慶 / 金沢男子軽演劇部

年の離れた二人の兄妹が一緒に住んでいて
兄は働かず、ぐうたら毎日を過ごしていて
妹は働いて、兄の面倒をみていて
それなりに暮らしていた

ある日、兄の昔の仲間が尋ねて来て
うまい話があると言う
騙されてるのかホンモノか
乗るの乗らぬの悩みつつ
ゆっくりと夜は更けていく

新津さんの本を淺井さんが演出する。
金沢アマチュア演劇のファンならこれだけで垂涎ものです。
しかも。
出演が風李さんと中里さんと春海さんと咲さんとくるのなら、夢じゃないかと自分の頬をつねってみてもおかしくない。
そんな夢のような公演でした。
2時間弱があっという間。え、もう終わり? と思わずにはいられませんでした。

序盤から笑いを取りつつ、中盤に至るまでその流れは変わらず、もしかしてこのままショートコント集みたいな感じで終わるのか? 淺井さんの出番はどこいったんだ? とハラハラさせられました。
それにしても、小ネタの連続と多少のぐだぐだ感を素直におもしろいと思えるのは、役者の力によるものでした。さすが。春海さんは本当に久しぶりに見ましたが、ブランクを感じないいい演技でした。この人の動き、好きだなぁ。どことなく小動物っぽい。イケメンなのに三枚目似合いすぎ。
で。
中盤の終わり当たりから徐々に効いてきました。演出による心理表現。
そして兄妹の会話の裏に秘められた心情に気がつくと、いままで笑って見ていた舞台がとてもグロテスクで奇怪なものに見えてきます。
この転換が好き。カタルシスってのは、物語を味わう上でのキモですよね。
そして物語は一気に加速し、ラストへ向かう

のですが。

この、最後の最後が、この作品を台無しにしてしまいます。
「えー?!」と大声で叫びたかったです。
惜しい……。
全体的にすごく良い舞台だったので、本当に残念な気持ちになりました。
とはいえ、やはりいい舞台なのは間違いありません。
テレビでがなりたてるように宣伝している映画を見るくらいなら、こっちを見た方がずっとお得な1,500円だと思います。
月曜のチケットにはまだ空きがあるそうなので、予定に空きのある方はぜひとも☆




さて。
ここから先はネタバレになります。
さっきも書いたラストについて。

ミュージシャンを夢見て上京した兄。
けれど音楽ではなかなか芽が出ず、バイト暮らしの日々。それなのにバイト先ではトラブル続きでバイトすら長続きしない。
ところがひょんなことがきっかけでボクサーとして道を歩むこととなり、順調に勝ち進んでいく。ところが、明日の試合に勝てばランキング、というときにバイク事故に合い右足骨折。ボクサーとしての道は絶たれる。
そこで再びミュージシャンを志し仲間集め。今度は才能ある仲間と巡り会い、人気を伸ばす兄のバンド。ところが、メジャーデビュー目前、バンドのベースが薬物使用の疑いで逮捕されてしまう。
絶望した兄はその足で田舎へと帰り、見事なニートとなったのでした。

と、いう回想をおもしろおかしく見せてくれたのが序盤から中盤にかけて。
そして序盤、回想に入る前に交わされた兄妹のなにげない会話が、中盤で再び登場します。
兄「お前だけは俺を見捨てないよな」
妹「もちろんだよ」

はじめは妹から金をせびり取ってパチスロに通う兄、という駄目さ加減がすけてよく見え、どちらかというとこの会話すらも小ネタのひとつとして成立していました。
しかし、中盤以降でのこの会話は、物語をひっくり返すだけの意味が込められていました。
おちゃらけていた兄がふと見せる真剣な表情。切実な声音。
逃げるでもなくかわすでもなく、どこまでも優しい微笑でそれを受け止める妹。

――嗚呼。
ここで気づいてしまいます。
この二人は共依存関係にあるのだな、と。
そして。
おそらく、兄の挫折には妹が関与しており、兄はそのすべてに気づいている。
人として駄目な兄と、その面倒をみる孝行妹。
その関係が崩れ再構築された先に現れたのは、兄を挫折させ、自分から離れられないように仕向ける妹と、その思惑を知りながらその関係におぼれる兄。
笑えないグロテスクさが逆に笑うしかない状況を生み出すさまは、ある種悲劇的であり、どうしようもなく喜劇でもありました。

そして物語は加速し、とうとう登場人物すべての仮面がはがされ、クライマックスを迎えます。
兄は妹にその思い――自分はお前の策略に気づいているんだぞ――をぶちまけます。

が。
ここで妹は実に冷静に振舞うのです。
「妄想。被害妄想もいい加減にしなよ」

表情も変えないままただ淡々と答え、そして兄にせがまれるままに金を渡すのです。
ここで、すべてがわからなくなります。

本当にこの兄妹は共依存なのか? それは単なる兄の妄想なのではないのか。ていうかそもそも、回想シーンで語られた兄の「過去」は現実なのか? あれがすでに妄想だったという可能性もあるんじゃないだろうか。だとすると、さっきまで繰り広げられていた「兄の昔の仲間」とのやり取りもすべてが兄の妄想だったということになってしまう。それじゃ夢オチじゃないか。いやいやそこまでいかなくとも、どんどんヒートアップしていったやり取りのどこかまでは現実で、どこかからが妄想だという可能性は? いや待て。妹がすっとぼけているだけで、すべてが本当のことだという可能性が消えたわけじゃない。
えー!? なにがどうなってなにが本当でなにが妄想なの?
あ、だからタイトルが「マボロシ」なのか。
くーっ、上手い! うますぎるな、この作品!!
そんなことをぐるぐる考えている間にも舞台は進みます。
妹から金をせびった兄は嬉々としてパチスロに出かけ、ひとり取り残された妹がさびしげな表情を浮かべ、照明が徐々に落ち、

ああ、このまま暗転して終わりかな。すごい深い余韻を残す、いい終わり方だなぁ、と思ったらば。

暗転は訪れず、ピンスポが当たった状態で、なんと妹が独白を始めました。そして、自分がさまざまな手を使って兄を陥れたこと、そこに暗い喜びを感じていること、せびられればいくらでも金を渡すつもりがあること、そんな金を握りしめて喜んでいる兄の顔を見ることがうれしいこと、を語るのです。
そして最後に一言。
「それが私の贖罪なのです」

そして今度こそ暗転があり、芝居が終わりました。

台無しと言ったのは、この最後の独白です。
最高潮まで盛り上がった妄想を、そのまま持ち帰らせてほしかった。
それなのに、1時間45分使って積み上げたものをぶち壊し、両手で抱えきれないほどだった妄想を、ひとつかみの真実にしてしまった。
結末をお客に投げてしまうのは良くない、ということなのかもしれませんが、今回の作品は明らかにそうした方が完成度が高かった。
兄が出て行った時点で終わらせるか、どうしても妹に独白させたいのなら、長々とした告白ではなく「贖罪なのです」の一言だけにしとけばよかった。
そうすれば、「え?! なにが?」と見ている側は混乱し、さらに多様な解釈ができるようになる。
妹はとぼけていただけで、兄を陥れたのはやはり妹だったのだ、と考えることもできるし、いやいや、すべては兄の妄想で、その妄想に付き合うことで現実に引き戻す努力を怠ったことを謝っているのかしらん、とか、妄想にいつまでも付き合いきれず、金を渡して数時間だけの厄介払いをしていることに対する罪悪感なのか、とか。とかとかとか。
そうした広がりがほしかった。
ほしかった、っていうか、そうした広がりが現にあったんだから、それを奪わないでほしかった。
残念です。
非常に、非ッ常~に残念です。
おもしろかっただけに。とてもおもしろかっただけに、がっかり感も大きくなってしまいました。


最後の挨拶で「解散」と言っていたし、そもそもこんな劇団の枠を飛び越えたドリームチームがいつまでも続くわけがないとわかっちゃいるけど、「次」が観たいです。
なんだかんだ言って、やっぱり楽しいから。
2時間弱を短く感じられる、ってのはすごいことですよ。
うん。
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