寺尾さんの新作アルバム。
『青い夜のさよなら』から数えて3年ぶり。
うれしいー。
一時期、というか、前作などで顕著だった社会的なメッセージ性の強さは少し鳴りを潜めています。そして楽曲的には、前作までに培ったものをさらに熟成させ、実に豊かな表情を見せてくれる作品となっていました。
「迷う」がすごい好き。
さよならさえも 交わす間もないまま
会えなくなった二人
せめて夢では 積もる話を
空見上げ 夜明けまでしよう
出だしのこの歌詞が胸に食い込んで離れない。
改めて思ったけれど、僕はこういうシチュエーションにとことん弱い。
もう離れてしまったあの人と夢の中での束の間の邂逅、的な。
溶けてなくなってしまうことがわかっている幸福。
それを悲しんだり惜しがったりするのではなく、たとえ束の間の夢だったとしても、幸福を幸福として受け止められる心持ち。
きれいだなぁ、と感嘆してしまいます。
そしてこの歌詞に秘められた物語性の高さですよ。
一人称で語られるこの物語は、どういったことが起こったのかという部分をそっくり置いてきぼりにしたまま「その後」が語られており、想像力の入り込む余地がふんだんに残されています。ていうか、想像力を働かせないて補完しないと全体像は見えません。
素直に読むパターン、少し裏を読むパターン、がっつり深読みをするパターン、脳裏にさまざまな物語が浮かんでは消えていく。
読み取れる多様な物語のどれもがきっと正しくて、きっとどれもが正しくない。
ひとつの詩が短編小説に匹敵する、この圧倒的ボリューム差を埋めてしまえるのが音楽の強みであり魅力でもあると実感します。
あと、「風と小説」「愛よ届け」「リアルラブにはまだ」も好きでした。
て、こう並べてみると、みんなアップテンポというか明るい曲ばかりだなぁ。
わかりやすいな、自分。
詩の物語性ということで言えば、これらの詩もすばらしい。
「リアルラブにはまだ」なんて、
数センチが埋まらない
やけに純情な恋のはじまり
これってどんなふたりなんだろうかと想像するとどきどきが止まらない。
うつくしい音、きれいな声、すばらしい楽曲。
もう魅力的すぎて震えてしまいます。