緑川ゆき / 白泉社

ある日、学校の黒板に妖の落書きを見つけた夏目。用心する中、多軌が最近、陣を使って家に迷い込んだ妖を助けたという話を聞く。夏目は多軌の使う陣が祓い屋の間では禁術であることを伝えようとするが…!?
今巻は、ひさしぶりに人間と妖の儚い結びつきをストレートに描いた作品集でした。
やっぱり変な小細工やひねったストーリーなんかはいらないですね。
人と妖と。
本来ありえないはずの出会いは必ず別れをはらんでいるものであって、それが好意的であればあるほど胸に迫るものは大きくなるのです。
あらすじにある、「見えない」人間が妖を見ることのできる陣。それが禁術である理由を、ある妖はこう述懐します。
禁じたやつは正しいな
禁じたやつは優しいのだな
だって 私はあの陣に入り はじめて人の目を見てしまってから
――あの子の目を見てしまってからは――――…
なぜか無性にこの地を離れがたく
しかしこの地に残っても 妙なさみしさはつのるばかりで
――なさけない… 何がこんなに苦しいのか―――…
そう夏目に告げ、妖は肝心の多軌には何も告げずに去ってしまうのです。
これだけでも十分じーんとくるっていうのに。
妖は去り際に、学校の黒板の落書きについて、たとえ読めたとしても「あれだけは秘密にしてくれ」と夏目に言い残すのです。
後日夏目は、黒板に書き殴られた文字を読んでしまいます。
迷った私を助けてくれた 連れていきたい かなうならば
美しき山を 美しき谷を ともに見てみたいと思ってしまった
この気持ちを 人は何と呼ぶのだろうか
そしてそれにかぶる夏目のモノローグ。
―――それは
まるで――…
この余韻の残し方。
やばい。
きれいすぎる。
『アツイヒビ』に収録されている「花の跡」、あれはもう、本当に戦慄するくらい感動しましたが、これはあの作品の上位互換だ。
余韻を残す終わり方という点に関して言えば、緑川さんは抜群に上手いなぁ。
やはりこの人は短編向きなんだと思う。
それか過去作のように3巻程度で完結するくらいの長さ。
そのほかにも2編この単行本には収録されていますが、その中のひとつ。
夏目が友人の田沼に誘われて出かけていくというお話。
ここで、田沼君が最後に夏目に告げる一言。
もうおれには夏目みたいな友人ができたからさ おれが、 あのヒトに
おれの友人を見せたくて来たんだ
ありがとうな 夏目
「夏目友人帳」とは、そういう意味もあったんだなぁ、とようやく気付かされました。
レイコさんが「友人帳」を遺したのにも、きっとこういう意味があったんだろうなぁ。
私にも友人ができたんだよ。
私の友人たちを見せたくて。
切ないなぁ。
でもあたたかい。