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監督:日向朝子

失恋の痛手から会社を辞め、ひたすら眠って毎日をやり過ごしていた貴子は、神保町で古書専門の森崎書店を経営する叔父のサトルに誘われ、小さな書店の2階で暮らし始める。ふさぎ込みがちな自分を何くれとなく気遣い励ましてくれるサトルやユニークな常連客、近所の喫茶店で働くトモコらと触れ合ううちに、生まれて初めて貴子は本の世界に引き込まれてゆく。そして、最低最悪の失恋に決着をつける時がやってくる。

2年半ほど前にTousand Birdies' Legsのライブのために東京に行ったときに見にいきました。神保町まで。神保町を舞台にした映画を、神保町で見るという贅沢。
そうした舞台背景によるプラスを差し引いても、実に良い映画でした。

本や書店といった物語内で物語を扱う作品は、ある特定の作品に寄っていって、その作品の力を利用することができます。『金魚屋古書店』とかこないだドラマにもなった『ビブリア古書堂』とか。本や書店を扱ったものではありませんでしたが、三浦しをんの『仏果を得ず』もそうした部類の作品でした。これは物語に厚みを持たせることができますし、なにより単純に強い。物語の強度が上がります。

今作は冒頭から主人公がひどく傷つくところから幕を開けます。当然物語の主眼は主人公の再生になるのだろうな、ということは察しがつくし、舞台が神保町ということは過去のどんな名作を絡ませてくることも可能です。
いったいどんな作品を持ってくるのかな、と思って見ていたら。
この作品は、そうした手法を取っていませんでした。
確かに何人かの作家やいくつかの作品の名前は登場しますが、それらはあくまでも小道具、彩りにすぎず、決してそこに寄っていくことはありませんでした。
これがいい。とてもいい。

寝て、起きて、ご飯を食べて、本を読む。
この繰り返し。
なんでもないことに見えるこの繰り返しが、ゆるやかに傷を癒す。
劇的なことは起こらない。特定の物語に自分を重ねたりしない。
ただただ単純に、毎日を健やかに過ごすこと、そうした時間の積み重ねが記された映画でした。

言うなれば、これは必ずしも古書店を舞台にする必要性がなかった。
もっと違った舞台でも成立しうる物語でした。
たとえば作中に出てくる喫茶店。主人公が身を寄せるのはそこでもよかったし、町のパン屋さんでもよかったし、森の中に住む絵描きのところでもよかったし、高台の上にある雑貨屋でもよかった。
寝て、起きて、食べて、過ごす。
健やかであることの、穏やかだけれどゆるぎない力強さに満ち満ちた生活が描ければそれで良かったんです。
その舞台に古書店、そして神保町を選んだというのが、この作品の最大のミソでした。
これは見てもらうのが一番良いのですが、古書店である必要性がないところに、あえて古書店を選んだ、というセンス! このセンスが抜群で、実に心地よい雰囲気を醸し出してくれているのです。


そして主人公を演じた菊池亜希子。
彼女が、またよかった。
なにより手がきれい。すらりと長く伸びた指、甲に浮かび上がる筋。読書するシーンの、あの手がとてつもなくうつくしくて。
見惚れました。


神保町シアターも雰囲気があったし、なにより劇中と現実との境があやふやになる高揚感が良かったけれど、この作品はDVDで見るのが、また、いい。
ゆっくりと、リビングで、お茶でも飲みながら。
おうち鑑賞の似合う作品です。
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